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海外視察
ローマ&ミラノ&ジェノバ(後半)

前半に引き続き、後半も榎本がお送りします。

■都市開発による地域の発展

イタリアで見てきた都市開発は次の3つ、
・ミラノ・ガリバルディ地区
・シティライフ・ミラノ
・ジェノバ・ポルトアンティーコ
です。

そのうちの2つの都市開発、ガリバルディ地区は2015年、シティライフ・ミラノは2018年(今も一部施工中)と近年作られた新しい再開発であり、まずは、先進国イタリアの、モードとデザインの街ミラノ、世界でも最先端の開発を見てきました。

1,ガリバルディ再開発地区

  • 出典:Pelli Clarke Pelli Architects

  • 出典:Pelli Clarke Pelli Architects

こちらのガリバルディ再開発地区は、2015年に開催されたミラノ万博に合わせて開発が行われたエリアです。ペリ クラーク ペリ アーキテクツ(PCPA)がマスタープラン、そして主要建物を計画し、規模としては40エーカー近くの大規模な開発となりました。
はじめにここについたときの感想は、ここは本当にイタリア?でした。高層タワーと整理されたショッピングモールと旧市街地の古い町並みとの街のコントラストに驚きました。

  • 広場から同心円状に広がるタワー

  • 水盤にポツポツと空いている穴は地下空間とつながっており、広大な光庭となっている

そして、駅を降りて大きな階段を登っていくと、巨大な水盤の空間を中心に同心円状にショッピングモールが広がっています。
水盤は足の甲に満たないぐらいまでの深さで、子どもたちがその上を裸足で歩くなど、ただのデザインされた水景としてだけでなく、アクティビティとして機能しています。またその様子を親達が写真を撮るという、ちょっとした親子のフォトスポットになっていました。

  • 周りには服、食器、カフェ等、様々なテナントが入っている

  • 庇のおかげで、まるでひとつの空間の中にいるような一体感を感じる

水盤の周りを囲うショッピングモールの上には、ガラス庇がぐるりと回るように設置されており、アンブレラフリーの空間が続く、商業の回廊が形成されています。私が視察したときは運良く天気に恵まれていましたが、確かに雨の日でも傘を持つこと無くこの街を回遊することができそうです。

  • PCPAデザインによる広場を囲うタワー

  • IBM本社

  • 揺らめくようなバルコニ配置のマンション

PCPAによる、囲われたタワーを中心に、木のフレームと見付けの深いルーバーで構成された有機的な曲線のIBMの本社ビル、4m近く張り出したバルコニーがランダムに配置されているマンション。その周りにも様々な特徴的なデザインの建物が点在しており、歩く人を飽きさせません。

  • ツインタワー「垂直な森」

  • バルコニーを下から見上げる

その中でも異彩を放っていたのがこちらのタワーです。円状に囲われた広場空間を抜けて、隣に併設している緑の広場方へと目を向けると、なにやら大きな緑の塊が見えてきます。この緑に囲われたツインタワー、その名も「垂直の森」と名付けられたタワーです。高さ5mを超える木々がバルコニーから立ち上がっており、下から見上げると緑が溢れ出しています。

駅を降りてこの再開発地区に入ると広がっている様々な用途の商業に囲われた空間は、そこにいるだけで、外から来る人を飽きさせません。来る人、住む人、働く人、全ての人々が満足できるようなとても素晴らしい再開発でした。

2,シティライフ・ミラノ

  • 道中を彩る、ザハ・ハディドによる天然木のパネルと繊維コンクリートで構成された左右の集合住宅

ヨーロッパ最大の再開発の一つと知られているシティライフ・ミラノは、集合住宅、オフィス、ショップ&サービス、グリーンエリア、デイケアなどの複合的な施設が含まれる再開発計画のひとつです。道中を彩る、左右に広がるザハ・ハディドによる有機的な曲線と木を使った集合住宅の先に、堂々としたカーテンウォールのプロポーションの美しいタワーがそびえ立っており、その奥で広がる空間への期待感が高まります。

  • 左からザハ・ハディド、ダニエル・リベスキンド、磯崎新のタワー

  • タワーに囲われた中央広場、ランニングイベント、協賛イベントが開催されている

更に近づいて行くと、トライアングル状に立ち並んだ三棟の高層タワー(残念ながら一棟は建設途中でしたが…)が見えてきました。三つのタワーはザハ・ハディド、ダニエル・リベスキンド(建設中)、磯崎新により設計されており、イタリアの中でもっとも高いタワー郡です。それぞれのタワーが個性ある、大きな形の動きで街の中心を作り出していました。そのトライアングルに囲われた中心には広場空間が広がっており、私が訪れたときは環境をテーマにしたランニングイベントが開催されており、人々が集まっていました。

  • ザハのタワー低層階には商業モールが入っており、現在一般の人が入れる唯一のタワーとなります

  • 合成バンブーでマテリアルの統一された天井、柱、床

ザハのタワーの下層部には商業施設が展開されています。内部空間は天井から柱、そして床までマテリアルが統一されていました。柱頭の部分とルーバー天井が有機的に一体となっている様子は素晴らしく、まるで木を中から見たような不思議で、豊かな空間でした。エスカレーターの下まで細やかながら大胆に、そして細部まで精巧に作り込まれたインテリア空間に息を飲みました。

  • 上部のガラスで覆われた天井からは自然光が降り注ぎ、照明がなくてもとても明るい空間

  • ちょっとしたBARのカウンターも有機的な曲線でくり抜かれた徹底ぶり

  • まだ開発は完了してないうえ、平日の昼間に行ったにもかかわらずすでに人で溢れていた

  • 建物の足元の芝生では、様々な人が思い思いに過ごしていた

3,ジェノバ港(ポルト・アンティーコ)

もう一つの視察した都市開発はジェノバの「ポルト・アンティーコ」と呼ばれる港町の開発です。

ジェノバは海辺の街であり、もともとはコンテナ会社や荷物の輸送、いわゆる港人のみが立ち寄る港で、水辺に一般の人々が集まるような街ではありませんでした。そんな中、アメリカ大陸発見500年を契機として、1992年にレンゾ・ピアノ主導による「ポルト・アンティーコ再開発プロジェクト」が行われ、人々が集まるイベントスペース、水族館、バーなど様々なアクティビティが港に生まれ、旧市街地、そして外から人が集まる港町になったと言われています。その開発から27年、近年の開発であるガリバルディ、やシティライフとは違った、再開発「後」の今を視察してきました。

  • 入り組んだ市街地

プリンチペ駅から降りてすぐ、周りには旧市街地が広がっています。建物が密集し入り組んでいました。しかし、これだけ入り組んでいるにもかかわらず不思議と袋小路や行き止まりとなる道がなく、必ずどこかに続いており、そのせいで地図を見ながら歩かないととんでもないところに出てしまいます。小道の中には住居だけでなく、地域住民向けのレストランやショップなどが、ポツポツと点在しており、それも日本ではあまり見ない光景でした。

  • 高架化された幹線道路

そして旧市街の路地を抜けると、旧市街地と港の間に、高架が架けられており、その足元は石畳、そしてデッキで舗装されています。そこではテントがいくつも並びファーマーズマーケットが開かれ、歩行者に開かれた空間となっていました。もともとは幹線道路が地面を通っており、レンゾ・ピアノはこのジェノバ港を再開発する際、既存の幹線道路を高架にすることにより、旧市街地から港へのアクセスを良くする計画を行いました。

  • 船を釣り上げるクレーンをモチーフとしたモニュメント

  • モニュメントに吊るされた展望用の昇降機

さらに、このジェノバ港を象徴するシンボリックなモニュメントが見えてきます。このモニュメントはイル・グランデ・ビーコと呼ばれ、直訳すると「大きなクレーン」。ただの形だけのモニュメントではなく、実際にクレーンとして機能しており、このモニュメントの先端から展望用の昇降機と、広場に掛る膜屋根が吊るされています。

  • 付近のお店のメニュー表

そして、シンボルであるオブジェ、「イル・グランデ・ビーコ」は港付近の店舗のメニュー表の表紙に使われるなど、港のあらゆるところでアイコン化されており、ジェノバを象徴するものとして親しまれています。
このように、一つのユニークなオブジェクトが街の象徴になっているのはとても素敵なことです。
今後都市を開発する際は人を集める仕掛けとして建物のデザインだけでなく、オブジェクトのデザイン、そしてその配置計画が街の行方を左右する重要な鍵になってくるのかもしれません。

  • レンゾ・ピアノによる水族館開演前から長蛇の列が並んでいた

  • イタリアでは珍しい巨大な水槽とそれを眺める人々

また、イル・グランデ・ビーコの隣にはレンゾ・ピアノによる船の形を模した水族館があります。客層は、イタリア人だけでなく、日本人などのアジア系の人もよく見かけ、各国から人が集まっているようでした。
27年後の再開発では、地元産業や職人企業の呼び戻しだけではなく、確かに外からの人も集まっている未来を創造することができました。
輸送の関係で、港付近は大きな幹線が通りがちですが、当然のことながら、街と港は分断されてしまいます。土木スケールの大きな話ではありますが、このマーケットの様相や、このあと紹介する港の水辺の人の賑わいを見るに、「歩行者優先のインフラ整備」はとても重要であると感じました。

<番外編>人を呼び集める文化施設
1,イタリア国立21世紀美術館

  • 21世紀美術館外観

  • クロークや、チケットカウンターなどの造作家具も曲線を多用した外装と一体的な、ザハらしいデザインで統一されている

こちらは2010年に完成したザハによるイタリア初の国立美術館です。古い町並みで新しい近代建築が少ないローマで、キャンチ構造(一端の固定支持のみで片方支持のないもの)で大きく付き出したボリュームや、ボリュームが流れるような曲線で交差する未来的なファサードはちょっと異質で、面白いデザインだと感じました。

建築の展示のなかで面白い展示手法を見つけました。建物の形を模したテントが上からワイヤーで吊るされて、中を覗くと建物の図面が印字されてプロジェクターが回っており、建物のコンセプトが流されているといったもの、建築のコンセプトと展示方法が一体となった、とても面白い展示でした。

  • Tシャツ一枚でふらっと入っても良いような、気取らない空間

  • 天井には発泡スチロールで作られたアートが吊るされている

こちらは美術館の中のカフェです。提供されている料理や飲み物に関してもコーヒーが80セントで売られているなど、街のカフェよりも非常に安い値段で提供されていました。美術館の展示を見に来た人だけでなく、近所に住む人もやってきているようで、美術館のカフェとは思えないほど賑わっていました。

  • 外部の展示物で遊ぶ保育園の子供達

  •  芝生で座り、先生の話を聞く子供達

美術館の前には丁度建物の2倍ほどの庭が広がっており、幾何学的なランドスケープが広がっています。そこで学校の子どもたちは屋外に展示されたアート遊んだり、樹の下に広がる芝生に座り先生のお話を聞いたりしていました。限定的なイベントではなく、このような文化施設が子どもたちの遊び場となり、更にはデザインの情操教育となっているのはとても面白いですね!

  • キャンチ構造の突端に展示されているソファ空間

  • 窓からはローマの町並みが一望できるビューウィンドウ

最後の展示空間では前衛芸術と並び、巨大な上下クッションで挟まれたソファのような空間、このアートが展示されているのは先程外観で大きくキャンチ構造となっていた突端部分に展示されています。靴を脱いで上がり、外のランドスケープを眺めながら、狭い空間で客同士が会話を始める。
美術館とは静かに眺めるものだという感覚を打ち砕くような展示でした
カフェだけを利用する人、広場を利用して子どもたちの遊び場とする人、静かに芸術を楽しみにくる夫妻、ワイワイとグループで来る若者たち。形にとらわれない新しい美術館のあり方だと思いました。

2,アラ・パキス博物館

  • 博物館エントランス前広場

  • 石の壁面が展示空間まで貫入している様子

次はリチャード・マイヤーによる設計、アラ・パキス博物館です。こちらはローマ帝国初代皇帝アウグストゥス政権時代の記念碑を保存する博物館です。割肌のゴツゴツとした石で仕上げられた巨大な壁が外部から風除室を抜け、展示空間まで突き刺さっており、この壁が外部の様相と内部のモダンな白の空間を繋ぎ、違和感なくランドスケープと一体的な空間を作り出しています。

  • グリッドで構成された巨大な天窓

  • 両側面からはガラスルーバーで制御された自然光がラインを描き、すっと入り込んでくる

カウンターを抜け展示空間に入ると、中心には紀元前の精密な細工の成された巨大な祭壇が鎮座しています。リチャード・マイヤーらしいモダンで詩的な白の空間と、ルーバーにより床や展示物に入り込むライン状の光、精密なデザインの紀元前の祭壇のコントラストが絶妙にマッチしており、ザハのイタリア国立21世紀美術館の騒がしく豊かな雰囲気とは違い、空間に程よい緊張感の走る静謐な空間です。

  • ベンチに座り本を読む女性

この博物館のメインの展示はこの祭壇のみであり、それ以外に展示物は小さなレリーフがいくつかある程度です。観光客含め喧騒で溢れるローマだからなのでしょうか、椅子に座って本を読む老人や、ベンチでゆったりと光を浴びる人々など、静かな空間を思い思いに楽しんでいるようでした。

3,ミラノプラダ財団

  • 地面にはめ込まれた鋳造の案内図

  • OMA設計により、1910年台に蒸留所として使われていた建物を改築して作られた

ミラノ中央駅から電車で15分ほど揺られ、最寄り駅より徒歩で10分ほど歩いたところに、このミラノプラダ財団が見えてきます。
展示空間は建物ごとに別れており、敷地内には金色で塗装されたホーンテッドハウス・ミニシアター・倉庫、そしてタワーといった建物が立ち並び、常設展、特別展が開催されています。規模はかなり大きく、すべての展示を回ろうとすると2時間以上はかかるのではないでしょうか。

  • プラダ財団美術館エントランス

  • 「お化けの部屋」がテーマのホーンテッドハウス

美術館入り口、1910年台当時の蒸留所の壁面に埋め込まれた、ドット表記デジタルサイネージが昔と現代をつなぐ架け橋になるような、ちょっとしたアクセントになっています。そして奥にちょろりと見える金色の建物、敷地の中に入ると早速現れますが、こちらの建物、古い建物はそのままにサッシの際まで丁寧に金色で塗装されており、何やら異質な存在感を放ちつつも、意外にも周辺の建物とマッチしています。

  • 黒い木のペーブメントとピンコロの取り合わせ

  • 幹が太く低い木が建物外周を当ピッチで植えられている

敷地の周辺は、高さ3mほどの背の低い木が建物周りに等間隔で植えられていて、ペーブメントの切り替えと合わせ、建物と道幅の空間のスケール感をうまく繋いでいました。ブランドに縁遠い私は、プラダという名前に、少し構えていましたが、よく美術館にある緊張感のある空間とは違い、ふらりと歩きたくなるような外部空間が広がっています。

  • 敷地外から見るタワー

  • 台形の形をした展示空間

こちらのタワーですが正面から見るときれいな正方形の建物に見えますが、裏から見ると、その複雑な平面形状が見て取れます。それぞれのフロアで平面形状が異なっており、階高も上層の階に行くに連れ、どんどん高くなって行きます。

  • 男女の仕切りがない共有のトイレ

  • よく見ると奥の黄色いメッシュの壁の向こう側に便座が隠されている

そして一番驚いたのが、このトイレです。実はこのトイレ、その他の展示空間と同じようにワンフロアをまるまるトイレに使っています。デザインも近未来的一枚目の扉を開けると左右が鏡張りで一瞬どこに便座があるかわかりませんでした。トイレに入るだけなのに、なにかちょっと美術品で用を足したかのように感じてしまい、なんだか少しそわそわしてしまいました。

  • 外側から見ても全く排水溝の位置がわからない、こだわりを感じる手洗い場

特に驚いたのが奥にある窓際に設置されている共用の手洗い場、PSが見えません。おそらくサッシの中を通しているのでしょうか。シンプルに見せるための力の入れ方が素晴らしい。

蛇足ではありますが、展示物は性や生死、政治など日本では大きな場所で展示されることの少ないものが、メインで展示されていました。このようなテーマに拒絶反応を示す人がいることも事実ですが、日本でもこのような展示を、もう少しフランクな形で触れられる場があっても良いのではと思いました。

最後に

人を呼び込むための仕掛け作りを今回私は視察してきましたが
それを一過性の流行にするのではなく、どれだけ持続可能性を持った「モノ、コト」にするのかは「外から来る人が求めているもの」を作るのではなく、「その土地に住む人々が求めているもの」を作ることが大切なのだと感じました。
一過性のイベントや流行りのものはその土地に根付きません。小さなイベントでも、大規模な再開発にしても、もともと持っている土地や人々のポテンシャルを引き出すことによって、それは愛される「モノ、コト」となり、休日だけ人が集まるような場所ではなく、その土地の風物詩として人が賑わう地元の場所となります。それを求めて外の人々も地方まで足を伸ばすのです。
地元に根ざした「モノ、コト」今後はそれをより一層考えながら、プロジェクトに携わっていきたいと思います。
今回の経験が将来のプロジェクトに少しでも活かせるよう、努力致します。

後編はなかなかボリュームがあったかと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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