Jun Mitsui & Associates Inc. Architects|Pelli Clarke Pelli Architects Japan, Inc.

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Staff report25/04/2017


海外視察 チューリッヒ&バーゼル&フランクフルト&アムステルダム&ロッテルダム(前半)

スイス チューリッヒ(出典: http://www.archdaily.com)

今回の海外視察レポートはスタッフ佐藤よりお伝え致します。
私は今回の視察で、スイスのチューリッヒ~バーゼル~ドイツのフランクフルト~オランダのアムステルダム~ロッテルダムの3ヶ国5都市を巡りました。今回は前後半に分けてレポートしますので、前半ではチューリッヒ、バーゼル、フランクフルトについて記させていただきます。各国の異なる街並みを巡りながら、再開発、集合住宅を共通軸に視察することで、日本の首都圏を中心としたたくさんの再開発のヒント、あるいはその先の目指すべき方向について考えたいと思います。

『高品質グリッド建築群』 スイス チューリッヒ

まずはチューリッヒ中央駅直近の再開発「Europaallee」から。
我々の事務所では日本国内において首都圏でも各地方でも再開発プロジェクトに多く関わっていますが、主要駅付近の開発は文字通りその地域の顔となる重要な位置づけとなります。首都チューリッヒの中心地の再開発とはどんな状況なのでしょうか。

工事中の一角に完成度の高いファサードを発見!

ライムストーンと玄武岩のクールな組み合わせの階段のその先は・・・

朝一番、タメディア新本社(坂茂設計/木造7階建ビル)を外から見ながら川沿いに街歩きをしていると、工事中の一角にただならぬ雰囲気のグリッド建築を発見。建築自体の高さは既存の街並みに揃えた高さにしているものの、建築が醸し出す匂いに引き込まれ、通りから建築の敷地内へ。ライムストーンのベージュと玄武岩のグレー、それらの石とガラスのコントラストが非常にクールな印象です。細部のクオリティが高く、時計に象徴されるようにスイスのものづくりへの精神が垣間見えます。

極めて硬質でパースペクティブな空間

棟間を抜けた先の広場は地上から2層上がったレベル(日本の感覚からするとかなりドライ)

さて、朝一ということもあり、人っ子一人いません・・・
棟間通路に至っては、硬質で無人、パースペクティブな空間に若干未来感すら感じます。
ところで建物の用途は何でしょう?チューリッヒ拠点の本社ビルのオフィスでしょうか。

チューリッヒ拠点の本社ビルだと思っていたらまさかの大学キャンパス!

棟間から顔を出す隣のブロック(銀行オフィス)のファサードがまたクール!千鳥で金色に見える部分はファブリックガラス)

―なんと、この建物はスイス最大の教員養成大学(PH Zürich)で、現在進行中の再開発「Europaallee」の一街区でした。
このEuropaalleeは敷地面積約78,000㎡。2020年の全体完成予定に向けて8段階のフェーズ分けて順次につくられ、2017年現在、4街区以上が完成し、大学の他、オフィス、アパート、ホテル、ショップ、レストランなどの複合施設が計画されています。ランドスケープ等は日本の感覚からするとかなりドライですが、道路に面した街路空間等は今後の工事で整備されていくのではないかと思います。

高級感と色気漂うファサード詳細。角度の振れたガラス面がグリッド基調に程よい変化と揺らぎをつくる

左:Max Dudler中央:David Chipperfield右:Gigon / Guyerの3者のデザインリレーで囲まれた中庭

大学街区の設計はグリッド建築の名手、スイス人のMax Dudler単独の設計ですが、隣の街区では4つの建物のうち2つを別の建築家(Gigon / GuyerとDavid Chipperfield)がそれぞれデザインすることで、アンサンブルのようなが生まれ、心地よい変化が生まれています。実はコンペの勝者はMax Dudlerだったようですが、彼の主導の下、準優勝の2社がこの街区の計画に招待されたようです。その効果もあり、グリッドや素材感というものはリレーさせながら異なったデザインが展開されることで、単調なブロック開発になることなく特に高級感あふれる街区となっていました。(銀行のオフィスが入っているようです)大規模な再開発において一体感と多様性はいつも主要なテーマの一つです。

徹底してグリッドの硬質な構成(手前左) 設計:Max Dudler

角度によって表情が変わるオーガンジーのような金色のファサード設計:Gigon / Guyer

朝一ということもあり1Fのカフェやショップの賑わいを直接感じられなかったのは残念でしたが、派手さよりも精緻さに重きを置いたスイス建築のクオリティを存分に感じることができる一角でした。

『田園風景に溶け込んだ集合住宅』 スイス バーゼル郊外

バスを乗り継ぎバーゼルから少し離れた郊外へ。
随分とのどかな所へやってきました。すれ違うトラクターや、畑、戸建住宅のサイズ感が不思議と長野の景色と重なります。(安曇野の農道沿いに隠れた名店、蕎麦屋を探すあの感じです。)

バーゼル郊外でなぜか安曇野の風景を思いおこす

向こうにぽつんと小さく見えるのが・・・

角地にあらわれた控えめなファサード

田園風景の中に広がる閑静な戸建住宅。さらにその先、一番奥の角地にありました。あくまで控えめなファサードです。想像していたスケール感よりさらに小さく、そっと斜面に沿えられている印象は、写真ではそっけないくらい控えめに見えます・・・

なだらかな斜面の全面道路に沿って連なる各住戸の入口

枠無し、面一でシンプルに納められた玄関建具

春先の野花が文字通り花を添え、より詩的でのどかな空気感を生み出していました

都市部でのドライな建築ウォッチングが続いたせいか、丁寧につくられた敷地との親密な関係にうっとりしてしまいました。写真では伝えられませんが、鳥のさえずりがBGMとなり周囲の田園風景と相まって本当にゆったりとした時間が流れています。

配置としては、なだらかな斜面に沿って階段状に連なる2階建て住宅2棟と、3階建ての賃貸住宅1棟の至ってシンプルなものです。RCスラブ、グレーの壁(RCではなく木ボードに塗装)、木サッシ、折れ戸の雨戸が統一されたデザインとなっています。1996年竣工なので20年以上が経っていますが、木部のメンテナンス等もよくされており、美しい状態で、住まいに対する住人の意識の高さも伺い知れます。  

周囲の景色も本当に素晴らしい

キャンチ部分の軒下に賃貸棟の各エントランスが並ぶ

奇をてらわず、敷地と丁寧に向き合う設計姿勢に心洗われたひと時でした。
設計:Peter Zumthor/シュピッテルホフ集合住宅

『再開発Westhafen +欧州最大のプラスエネルギー集合住宅』 ドイツ フランクフルト

さてドイツはフランクフルトに移動。超高層の集まる中心街から、フランクフルト中央駅の南に隣接するマイン川沿いの再開発Westhafenを見に来ました。元々は船舶輸送のための倉庫やドッグがあった地区で、レストランやオフィス、住宅への用途変更の再開発です。2003年のマリーナの完成を皮切りに順次工事を進め、2013年に最後の住宅棟の完成となっているようです。訪れた時には丁度、隣の街区の再開発も竣工間近でしたので合わせて紹介したいと思います。

出典:aktiv stadthaus in frankfurt am main

一帯の開発のシンボルタワー(Westhafen Tower)

賑わいが街路に滲み出すオープンカフェ

ランドマークとなっているシリンダー型のガラスのタワーを目印に歩くと中央駅から10分程でマイン川に到着です。天気も良く、川沿いのおおらかなランドスケープに沿っての街歩きは爽快です。タワーに隣接するビジネスセンターの1Fにはもちろんカフェも併設。川に向けて開かれたオープンテラスが気持ちよさそうです。

オフィス棟の奥に何やら気になる建物発見!

工事中の集合住宅でした。奥行が薄い・・・そして間口が長い!

三角平面のオフィス棟(配置全体でみると船首に見える)の奥に目をやると、同様にスラブラインをデザインに取り入れた建物が見えます。カタカタ雁行して黒光りしているファサードも気になり、川沿いの街歩きは後にしていきなりコース変更です。近寄るとそれは工事中の集合住宅・・・そして黒光りの正体は全面太陽光パネルでした!

一面の太陽光パネルが潔い。緩やかな雁行が長大なファサードにリズムを与え、単調な壁面になることを軽減している

コーナーバルコニーの木貼りを仕上げていく職人さん。コーナー部、最上階の壁面を木仕上げにしていることで、ハイテク一辺倒ではない柔らかな印象を生み出している

ここで少しこの集合住宅の計画の詳細を紹介。総戸数74戸、地上8階のプラスエネルギーハウスです。全長約150m、奥行は約9mと非常に細長い形状をしていますが、この奥行や高さは緻密に検討された結果とのこと。9mの奥行きは屋内に差し込む日射範囲を最大限に活かすことにあり、ドイツは北海道よりもさらに緯度が高い訳ですから基本的には長い冬の暖房費を抑えることが重要になります。奥行を深くしすぎると暖房のエネルギー需要が上昇してしまうため、この9mという数字だということです。

周辺ボリュームと高さは揃っている為、先行開発とのコントラストが心地よい

北側は基準階のバルコニーが張出す

奥行きを深くすれば屋根に載せられる太陽光パネルの量も増えることになりますが、その発電量上昇分よりも負荷の上昇分のほうが大きいという検討結果に基づき断面決定しているようです。これは高さも同じで、階数が増えればファサードの太陽光パネルの設置は増えますがが、エネルギー需要の上昇分のほうが大きいということから、プラスエネルギーハウスとするには9階にはせず8階建としたようです。設計はHHS/Heggaer・Hegger・Schleiff建築事務所。ヘッガー氏は「持続可能な建設と優れたデザインが矛盾してはならない」と述べています。エンジニアリングだけの力ではなくではなく、益々意匠デザインの重要性は増していく気がします。

一般階の基準プラン。住戸の奥行の薄さが良く分かります。共用部を中心に左右の住戸は北側にバルコニーを、真ん中の住戸は取り込みバルコニーとなっている3戸1の組み合わせ。ペントハウスは2戸1の南面バルコニーとなり眺望は抜群です(出典:https://www.kankyo-business.jp)

実はこの再開発は、我々日本人が経験した東日本大震災の影響が少なからず関係しています。福島第一原子力発電所事故がドイツのエネルギー政策を根本的に変えているからです。東日本大震災からわずか4か月後には原子力発電所を2022年末までに全廃することを、ドイツが法制化したのは周知のとおりですが、同時にそれは代替手段としての自然エネルギーの利用を否応なく加速させています。このアクティブ・タウンハウスは、EUが2021年から新しい建築に対して課す予定であるゼロエネルギー化に向けた厳しい基準をすでに達成しているようです。 一方日本の現状はどうでしょう? 2020年に向け省エネルギー基準への適合を義務付けていますが、その実態は古い基準の焼き直しで大きな前進はありません。2050年にはすべての住宅でゼロエネルギー化を実現といった目標も示されているようですが、その差は歴然・・・遅れる事30年!日本は恐るべし省エネ後進国です。これは本来、震災を経験した当事国である我々が世界の先陣を切って挑戦すべきことであるはずです。政治的な話でもあり、すぐに変化は起こせなくとも、低い基準に甘んじることなく少なくとも今一度そういう気概を持って行動しろと激励されたような気がしました。

デザインの多様性が歩いて楽しいまちの雰囲気をつくりだしています。通りの真ん中には柵もなく線路が!

コーナーのラウンド形状が柔らかな印象の街区

エネルギー政策について、途中説明がすこし長くなってしまいました・・・周辺の街並みは中層程度のボリュームでコントロールされ、街区毎のデザインは変化に富み歩いて楽しい雰囲気が生み出されています。外付ブラインドやシェード等による夏の日射抑制は建物の新旧に関わらず徹底されています。これは先に訪れたスイスでも同様です。

所々に設けられたカフェやレストラン

川側に設けられた中庭へのサブエントランス

川沿いは中庭を分棟配置で囲み、圧迫感を軽減しています

橋を渡った低層住宅のゾーンはプライベートハーバー付

日本でも、中層程度のボリューム計画で丁寧につくられた街並みがもっと増えてくると、地域による多様性がさらに生まれるはずです。個人的には住人が窓際から、(映画のワンシーンにあるような)通りの知り合いに向かって話しても会話が成立するくらいのそんな高さが暮らしの中では理想のスケールなのではないかと思います。今回の旅でもバルコニー越しに話しかけられたことがありましたが、生憎ドイツ語はさっぱり・・・(笑)別の旅ではカメラに気づいた美女がとびきりの笑顔とポーズをくれたことも!たとえ超高層の計画だとしても人や緑、鳥や虫の気配を感じる事の出来る低層部のデザインはいつも最重要項目の一つです。
次回後半ではオランダのアムステルダムとロッテルダムのレポートをお送りします。