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海外視察 リヨン&オスロレポート

今回の海外視察レポートはスタッフ稲山よりお伝え致します。

現在、2020年に東京オリンピックが行われることもあり、首都圏ではオリンピックと関係があるものからそうでないものまで多くの再開発が進行しています。今回はそのような日本の現状に対して、世界の国々ではどのような再開発が行われているのかという関心から、ヨーロッパの2つの再開発を視察してきました。視察を行ったのはスマートシティを掲げるフランス、リヨンの“スマートコミュニティプロジェクト”、とノルウェー、オスロの沿岸エリアの再開発プロジェクトの地です。

『スマートシティによる街づくり。リヨン(フランス)』

まず私が訪れたリヨン (Lyon) は、フランスの南東部に位置する都市でフランス第二の都市です。パリから飛行機だと約1時間でアクセスすることができます。その町並みは世界遺産にも登録されており、丘の上からは旧市街地の美しい街並みを見ることができます。
今回視察を行ったスマートコミュニティプロジェクトは、ローヌ川とソーヌ川に挟まれた中州状のコンフリュアンスという地域をリヨンの第2の市街地にすることを目標にした再開発プロジェクトです。コンフリュアンスは1920代から工場などの産業によって一旦は発展をしていましたが、1990年代にその発展が衰退に転じていったエリアです。再開発の対象地区は150ha程あり、第1期で41ha(2011~2016年)、第2期で35ha(2016~2020年)が開発される計画です。旧市街地と接続する駅周辺の74haが保存地域となっています。私が訪れた時期は第1期の計画がほぼ完成しようとしている時期でした。

出典“Aderly"(https://www.aderly.jp/)

最初に向かったのは開発エリアの中心部で、第1期(2011~2016年)に建設されたエリアです。新しくきれいな街で、昔ながらの建物が残るリヨンの旧市街とは対照的な風景でした。中心エリアには水辺の空間を中心に商業施設や住宅・オフィスが並んでいます。最初に訪れた商業施設では外部空間がどこまでも続いていくような造りで、気持ちの良い空間でした。テラス席は人で溢れ、食事や休憩をする人が思い思いに過ごしていました。

  • 川沿いの商業施設

  • 外光が入る外部空間の様な建物内

  • 3階のテラス席

川を挟んで反対側に外観が特徴的な3つの建物がありました。それらは“HIKARIビル”と呼ばれている建物で、隈研吾建築設計事務所がフランスの設計事務所とともにデザインした建物でした。私が訪れた時には1階以外はほぼ完成している状態でした。この3つの建物の機能は住宅・オフィス・商業となっており、エネルギー効率の実証モデルとしてなるようで、エネルギーのスマート化を掲げるこのプロジェクトのシンボル的な位置付けになっています。これらの建物は太陽光を奥まで取り入れることができるようにくびれたような形状が用いられ、建物のファサードデザインに太陽光発電のセルが用いられていました。スマートシティ、というと太陽光パネルなどの発電やエネルギー制御システムの話に頼るところが大きい印象を持ちますが、これらの建物はエネルギーを確保することを建築的に解決しようとしている点に新しさを感じました。

  • “HIKARIビル”.右から“Higashi”、“Minami”、 “Nishi” 

  • “Nishi”:光を建物の奥まで取り込むためのくびれた形状

  • “Minami”:太陽光発電のセルを用いたファサードデザイン

地元の方の話ではこの再開発で建設される新しい建物には太陽光パネルの設置が義務付けられているとのことで、この建物以外にも商業施設やオフィス・美術館などの建物には太陽光発電パネルが設置されていました。
コンフリュアンスを訪れてみて、特徴的と感じたのは集合住宅のデザインです。建物のデザインとしてはそれぞれ個性的なデザインになっています。しかしながら、建物の高さが揃えられており、街の統一感とヒューマンスケールが適切に保たれている印象を持ちました。特に建物のデザインを特徴付けていたのはバルコニー廻りで、バルコニーに緑や家具が置かれ、積極的にバルコニーが生活空間の一部として使われていました。デザインも透明なガラス手摺・メッシュ状の手摺・開閉できてバルコニーを半屋外にできる建具状のもの、などバラエティに富んでいて多様性を生んでいると感じました。そして集合住宅の間には公園のような外部空間が配置されていました。建物毎で単独に中庭を持つよりも、シェアすることで日照を確保でき、また、効率良くまとまった外部空間があることで、子供たちも広い緑の芝で走り回ることができるようになっており、巧みな空間のつくり方だと思いました。

  • 個性のあるファサードデザインが連続する

  • スライドできる建具によりサンルームのような使い方の出来るバルコニー

  • メッシュを用いることで奥行き感をつくり出しているバルコニー

  • 公園のような中庭、両脇集合住宅が並ぶ

中心部の外部空間は水辺で憩う人々の風景が印象的でした。水辺空間には段差を利用したベンチなどの人が集まる仕掛けがあり、川に挟まれた土地のポテンシャルを生かした親水空間が作られていました。特に商業施設と水辺空間の周りには、ショッピングに来た人々や散歩をする人々で賑わっていました。川沿いには緑も配置されていて、昔工場があったエリアとは思えない、美しい水辺空間がつくられていました。特に川沿いのエリアには車が入ることができないエリアも設定されており、子供連れの家族なども安全に過ごすことができるようになっています。このコンフリュアンス地区に限らず、リヨンの人々が外のテラスなどの空間で食事やお茶をする時間を過ごしている風景を見ることができます。そのような人々にとって、外部空間を安心安全で快適にすることは大切なポイントだと感じられました。

  • 川に向かって階段状になる

  • 川沿いの緑と飲食店のテラス席

  • 川沿いのビオトープ

  • ソーヌ川を眺めるストリートファニチャ

またコンフリュアンス地区ではトラム(路面電車)・レンタルEV車・レンタルバイクの交通機関が整備も進められていました。人々に最も利用されているのはコンフリュアンスのエリアを縦断するトラムです。運行間隔も短く、開発エリアの移動にとても便利な交通手段でした。レンタルEV車は再開発エリア内に6箇所のEV車のステーションが配置されていて、予約制で借りることができます。それぞれのEV車は中央でシステム管理されているので、街のどのステーションにでも返すことができます。EV車の充電も太陽光で発電された電気でまかなわれるだけでなく、EV車まで地域で管理するエネルギーのスマートシステム上に取り込まれている点がユニークでした。また、赤い色が印象的なvélo’v(ベローブ)と呼ばれるレンタルバイクはEV車に比べて、バイク・ステーションの数が多く、安価に借りることができるので、旅行客やトラムが走らない場所を移動するにはとても便利な交通手段です。

  • コンフリュアンスエリアを縦断するトラム

  • EVカーステーション

  • 街の至る所で借りることが出来るレンタルバイク

コンフリュアンス地区には、スマートシティであることを示す看板や太陽光パネルが目に付くところに置かれているわけではありませんでした。受けた印象としては、スマートシティという効率の良いエネルギーシステムのインフラの上に、ヒューマンスケールで多様性のある街づくりを行う努力がなされているという印象でした。

『ウォーターフロントの再開発:フィヨルドシティプロジェクト オスロ(ノルウェー)』

次に訪れたのはノルウェーの首都オスロです。オスロのウォーターフロント開発は、もとは造船所跡などがあったエリアの内、海沿いの約10kmがフィヨルドシティというデザインガイドラインに基づいて開発されています。リヨン同様、ヨーロッパにおいて次々に新しい建築がつくられているエリアの一つです。すでに完成している建物の中でノルウェー国立オペラホールが有名ですが、その他にも最新のデザインホテルやオフィス、美術館、集合住宅エリアの開発が進んでいました。沿岸を徒歩で巡り、エリア毎に性格の異なる表情を見ることが出来ました。

まず訪れたのは美術館・ホテル・集合住宅などの多様な機能が集まるチューブホルメン(TJUVHOLMEN)エリアです。エリア内にはレンゾ・ピアノが設計した新しい美術館があります。この建物は遠くからでも認識でき、エリアの象徴的な存在となっていました。美術館の隣には公園が隣接しており、近くに住んでいる親子や美術館を訪れた観光客で賑わっていました。この美術館と海の間に挟まれた公園は海を背景にアート見て過ごすことのできる、気持ちの良い場所でした。

  • チューブホルメンの模型

  • チューブホルメンの入口

  • レンゾ・ピアノ設計によるアストルップ・ファーンリ現代美術館(Astrup Fearnley Museum of Modern Art)

  • アストルップ・ファーンリ現代美術館のアプローチ

  • 美術館に隣接するアートが点在する公園

同エリアの集合住宅のデザインは個性的で、日本ではあまり見ないビビッドな色味を用いた建物外観も多数ありました。建物高さや、ボリューム感は似ていますが、海側に張り出すような特徴的な形をしたバルコニー形状が建物に方向性を与え、単調さがなくなっていると感じました。

  • 外観にビビッドな色味を用いたホテル

  • 特徴的な形状の張出バルコニー

外構は敷地境界が認識できないほど統一感のある床仕上げが用いられていました。また美術館、集合住宅とも共通して建物下の軒下空間が設けられていることも特徴的でした。この軒下を辿っていくと行き止まりになることなくエリア内を歩きまわることができます。雪が降る日でも外を歩くことができるように造られた工夫だと思われます。

  • 行き止まりのない軒下空間

次に訪れたのは、アーケル・ブリッゲ(AKER BRYGGE) は新しい開発と旧市街地が交差するエリアです。このエリアは、観光客・現地のオフィスワーカーなど様々な人が訪れる場所で、商業施設や道沿いの飲食店、ベンチなどで時間を過ごす人々の風景がありました。内陸側は既存の古い建物をリノベーションしている商業施設が多いようでしたが、一方で沿岸側には新たな建物が造られていて、そのアイコニックな形状が目を引きました。船を利用した飲食店も多く、海との関わりが深いこの土地ならではの水辺空間の使い方だと感じました。通りにはベンチなどのストリートファニチャ、インフォメーションボックス、アートなどが点在しています。それらは共通してオレンジ色で塗られ、テーマカラーになっていました。このオレンジのファニチャはオペラホールまでつながっていて、あまりお金を掛けずにエリアの再開発の一貫性をつくるための上手な方法だと感じました。

  • 通り沿いに並ぶ飲食店のテラス席:茶色い建物が改修された商業施設

  • 海に面したアイコニックな形状のレストラン

  • オレンジ色のストリートファニチャ

  • コンテナを再利用したインフォメーションボックスもオレンジ色

最後に訪れたのはソレンガ(SORENGA)という新しい住宅地で、低層の集合住宅の建設が進められていました。先述したチューブホルメンの集合住宅に比べると建物高さが低く、外観の色味などはアースカラーで統一感がありました。特に集合住宅に共通して見られたのは光を取り入れるための特徴的なバルコニーです。現地の方に聞いた話では、オスロは日照時間が短いため、外が過ごすことができる気候の時期には人々は日光を求めてバルコニーや屋外で過ごすようです。そのため千鳥配置により2層分の高さのあるバルコニーを造っていたり、建物がセットバックすることで下の階でも光を得ようとする工夫がありました。集合住宅の販売センターにはそれぞれの建物が季節毎にどのような日照の状態になっているかを示したシミュレーションの資料も用意されていました。

  • ソレンガの模型

  • 2層分の高さのあるバルコニー

  • 光を取り込むためにセットバックするバルコニー

ソレンガの海沿いのデッキ空間には日光を求めてデッキに寝そべる人で溢れていました。観光地でない分、上半身裸で過ごす人などもいて、外で過ごすことの好きなオスロでの人々の生活が垣間見えました。さらに海側に進むと面白いデッキ空間を見付けました。一見、水辺のデッキ空間に見えるこの場所は、転落防止のための手摺がありません。実はここは海で泳ぐための様々な仕掛けがあるデッキ空間でした。良く廻りを見てみると海に向かって階段状に降りていく場所・飛び込み台・シャワー・ベンチなどが配置されていることが分かります。一部には海の水を引いてきてプールとして利用しているエリアもあります。次々に服を着てきた人が服を脱ぎ、海に入っていきます。オスロの人々は夏から秋口ごろまで海で泳ぐようです。このデッキ空間はビーチがないオスロで泳ぐための水辺空間の在り方なのだと感じました。オスロの水辺空間や住宅のバルコニーはオスロの気候やこの地で暮らす人々の生活の活動に根差しており、それが建物に外観的な特徴も与えていて、うまくデザインされている印象を受けました。

  • デッキで日光浴をする人々

  • 海へ入るための階段

  • 飛び込み台

最後に、今回の視察では2つの国の異なる再開発を見て回りましたが、共通して2つ共に大きな再開発だったためか、全体としての統一感を持たせながら、それぞれの地域の人々の生活に根差した空間のつくり込まれていると感じました。人が過ごす・暮らす空間として心地の良いものを創り出していることを大事に考えた結果、必然的にそのような空間が生まれているのだと思います。今回実際に見て感じた、人や土地を中心に考えるという点は、とても基本的なことではありますが、それによって空間の在り方が大きく異なることを体感することが出来ました。この経験を、日本の開発に携わる1人として活かしていきたいと感じました。

以上、スタッフ稲山のレポートでした。

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