前回に引き続き視察レポート後半を佐藤よりお伝えします。
『ヨーロッパ最大規模の公立図書館』アムステルダム
斬新でユニークな建築が次々に生まれるオランダ。訪れたアムステルダムでは少し視点を変えて公共建築の紹介をしたいと思います。各地域で図書館もいくつか見てまわりましたが、こういった公共建築ものはやはり目を見張るものがあります。解りやすさ、明快さは何よりまた訪れたくなる楽しさがあります。アムステルダム中央図書館では図書館自体が観光スポットとなっていて、国内外からの観光客もたくさん訪れているようです。東埠頭アイランドという地区にあり、赤レンガで有名な中央駅からは徒歩で10分もあれば着ける場所です。
外観は水辺に向けて開かれたゲート型の大きな構えです。2007年7月7日に開館(7/7/7!)したものです。
設計はJo Coenen(ヨー・クーネン)。地下1階、地上9階。述床面積は約28,000㎡と欧州で最大規模の公共図書館です。図書館建築として世界的にも有名な、せんだいメディアテーク(述床面積21,682㎡地下2階、地上7階)と比較すると規模の大きさが分かるでしょうか。
エントランスを入ると正面に光り天井のエスカレーターがお出迎え。公共施設とは思えないポップさです。エントランスロビーにはピアノが置かれていて、誰でも自由に演奏することができます。図書館の隣には国立音楽院があるので、そこの生徒達が弾いていることもあるそうです。図書館は静かなものという常識が覆されます。
館内はとにかくゆったりした構成で、上下階を所々繋ぐ吹抜けが空間を豊かにしています。図書館とは思えないダイナミックな空間の繋がりですが、天高のメリハリが効いていて、気分に応じて様々な閲覧席を選べる楽しさもあります。
空間構成の工夫や、デザイン的な挑戦は至る所にみられますが、館内全体が白と木を基調としたまとめ方をしているのでやり過ぎ感や雑多な感じはありません。素直に、滞在して楽しい空間という印象を受けました。
最上階にはビュッフェレストランがあり、シアターも併設しています。テラス席からの眺めも抜群です。
開館時間が朝10時から夜10時までというのも本好きにはたまりませんね!視察でなければ1日ゆったり滞在したくなるような図書館でした。
おまけに図書館をもう一選。アムステルダムの東へ約30kmに位置するアルメレにあるその名も「新しい図書館」Nieuwe Bibliotheek(ニュー・ベビリオシーク)。2010年オープンの図書館です。本屋さんにいるようなディスプレイ、楽しいデザイン、こちらも長時間滞在していたくなるような素敵な図書館です。
以前は、本やCDを借りてさっさと帰っていくような図書館が、今では長時間滞在しコミュニケーションを誘発するような施設に大きく変わったようです。
最近、図書館に行っていますか?家の近くにもこんな図書館がほしいですね。
『オランダ最大規模の屋内市場Markthal』ロッテルダム
最後はオランダのロッテルダムから。
ロッテルダム駅は9年の歳月をかけて新駅舎が2014年に完成しました。改札を抜けた瞬間からダイナミックな大空間が広がり、訪問者に高揚感を与えます。プラットフォーム部分の屋根の半分弱に太陽光パネルが組み込まれ、駅構内で使われる全エネルギー消費量の約8~15%をカバーする計画となっているようです。そして、さすが自転車大国オランダ。エントランス付近にはベルトコンベアー形式のエスカレーターがあり、5200台の自転車が止められる駐輪場が地下にあります。750台収容の駐車場も完備しています。
駅には夕方の到着でしたが激しいデザインにやや圧倒されます。駅正面に街並みが開けていますので、まずはそちらの散策から。所々には自転車用の駐輪場入口が設けられ、駅から離れた一部はまだ工事中でした。
恥ずかしながら、次の日再び目にするまで、頭では理解しているもののPARKINGをSPARKING!と読み間違えていました・・・恐るべしダッチデザイン!わざわざ書かなくても十分スパーキングしてるよ!と一人笑っていたものの恐るべき見間違いでした・・・相当疲れていたんだと思います。
更に進むとレンガで舗装された細長い公園があり、歩道に沿っていくつかのアートも設置されています。
特別つくり込んだランドスケープではないのですが、夕日を浴びて光る水面を前に芝生の上に座ったり、寝転んだり、思い思いに語らっている姿が印象的でした。
地元の人々の日常風景を垣間見ることができる市場見学は旅の定番!ということで、2014年10月にオープンした新しい市場Markthalを見にやって来ました。有名なキューブハウスや市立図書館の向かいにあるのですが、広場を囲んで地下鉄入口のドーム屋根やとんがり帽子の屋根のタワーがあったり、それぞれが脈略なく存在する建築の万博状態で広場空間はまとまりに欠けています・・・そんな中にあってマーケットホールの正面ファサードは圧巻のインパクトです。この建物、実はアーチを形成する部分は住居になっていて側面には住宅のバルコニーが並んでいます。上層階が緩やかにセットバックしていく為、側面からの見上げでは意外と柔和な印象を受けます。
設計は地元ロッテルダムの建築家集団MVRDV。もともとは、市場の建物と集合住宅の建物が隣り合う想定でデザイン依頼を受けた案件だったようですが、これに対し1つの建築の中に屋内市場と住居を組入れるという斬新なアイディアを逆提案したそうです。大胆な発想ですが、住宅部分が市場として必要な壁と屋根の変わりになっているので、その分の建築コストを節約できる訳です。なおかつ地下も含めた土地利用の集約や効果的な機能の組み合わせによって、これだけたくさんの人々が訪れる大空間を実現したと考えると、ものすごく合理的ですね。近年日本でも庁舎と集合住宅との組み合わせにより、庁舎の建て替え費用を捻出するという事例もありましたし、本屋×ホテル等の異なる空間イメージの組み合わせも話題を呼びました。組合わせによる新たな価値の創出の可能性はまだまだ広がるような気がします。昨年はまさかのペン×リンゴの組合わせが流行りましたね・・・PPAP・・・。
壁面、天井面に正方形の窓がありますが、その向こう側が住戸です!(共用廊下部分も一部あり)住宅内部から市場の賑わいを覗き見ることができるという仕掛けです。さすがに匂いや騒音をカットするために3重ガラスを使用しているようで、総戸数は228戸。102戸が賃貸、126戸は分譲で80㎡~300㎡のプランタイプがあるようです。
市場の壁、屋根を集合住宅でつくってしまうという大胆なアイディアを建築たらしめているものは、間違いなく透明なガラスの大壁面です。カラフルなアートワークの天井と店舗、買い物客の賑わいに目を奪われがちですが、注目すべきこの大開口です。いとも簡単に納めているように見えますが、これだけ透明にさらっと仕上げるのは並大抵のことではありません。この類のものとしては欧州最大のガラスファサードのようです。開放的な大開口の向こう側にロッテルダムの都市の広がりを見たときに、脳裏にタイムワーナーセンター(NY)のエントランスアトリウムのガラス大壁面を思い出しました。両者とも内部のフレームを通して見える都市の風景が印象的です。
さいごに
視察を通して、魅力的な再開発とは、持続可能な建築とは・・・と考察すべきことはたくさん見つかりました。そして、あれこれ難しく考える前に我々が見失ってはならない単純なことが一つあるように思いました。それは「愛される建築」をつくるという姿勢に他なりません。独りよがりではないということです。当たり前過ぎることですが、人に愛されなかったら建築はすぐに壊され、また新しいデベロッパーがやってきて新しい建築が建てられてしまいます。そしてまたその繰り返しです。愛着のある服や靴は修理しても永く使いたいと思いますね。あるいは家族から受継いだもの、自分で修理したものにはストーリーが生まれ、より一層大事に使いたいはずです。物持ちが良いということは持続可能性に直結します。つまりこれは品質や性能だけではないということです。人の気持ちに寄り添うということがデザインに携わる人間として最も大切なことなのではないかと思います。
これからも、暮らしの受け皿となる丁寧なものづくり、まちづくりを目指していきたいと思います。
以上2回にわたりスタッフ佐藤のレポートでした。