今回の海外視察レポートはスタッフ全よりお送りします。
私は普段JMAのインテリアデザイン室でデザインの仕事を担当しております。昨今ホテル案件が増えつつあるという背景から、今回の視察は世界のトレンド発信地であるニューヨークに行き、最先端のデザインホテル事情を目で見て体験することを目的に一週間滞在して参りました。
今回のレポートでは視察で滞在したホテルの中でも特に印象に残った3つのホテルの紹介をし、第二回ではホテル視察の傍ら初めて訪れたニューヨークの街を堪能したエピソードを交えてお伝えします。
1 Hotel Brooklyn Bridge
まず1つ目にご紹介する1 Hotel Brooklyn Bridge (https://www.1hotels.com/brooklyn-bridge)はブルックリンブリッジの麓から程近くマンハッタン島を望むブルックリン・ブリッジ・パークに面した、絶好の展望を誇るホテルです。
こちらは2017年にオープンしたばかりの新築ホテルで「Nature is home in Brooklyn」をテーマに、ホテルの外装から内装そして家具、小物に至るまで徹底して地元ブルックリンで作られた素材を使用し、木材のルーバーや屋内グリーンなど、緑をふんだんに感じられる空間を展開しています。
エントランスを入るとホテルの1階には2層吹き抜けになったラウンジが広がっています。その奥にはいわゆる「サードウェーブコーヒー」と地元のスイーツが楽しめるカフェと地元で採れた素材で作った料理を提供するレストランがあります。2階にはマンハッタン島に立ち並ぶ高層ビルの絶景が広がる開放的なテラスと隣接しているカンファランスエリアとフィットネスが位置しており、最上階にはマンハッタンの夜景が堪能できるバーと屋外テラスがあります。
客室は全部で194室あり、私は今回ブルックリンブリッジを望むBridge Kingに泊まりました。部屋の広さは27平米で、ブルックリンブリッジ側の壁は一面ガラス張りになっており、とても開放感がありました。また、室内で使われているフローリングやベッドリネンとカーテン、家具の素材で使われたリサイクルウッドなどはすべて地元で生産、加工されたものとのこと。センスの良さのみならず、使い心地も申し分なく、気張らないホスピタリティが感じられるしつらえの部屋でした。
共用部だけでなく、部屋の内部にも緑はありました。洗面台横に設置された、盆栽のような見た目の小さな苔のアートには「NOW!」という文字が彫られた小石が置いてあって、アメリカを中心に世界に広まりつつある、「マインドフルネス※」の思想がホテル業界にも深く浸透していることを実感しました。
※マインドフルネスとは…今この瞬間の自身の精神状態に深く意識を向けること。またそのために行われる瞑想。(出典:小学館/デジタル大辞泉)
徹底した地元産へのこだわりと自然を全面に打ち出したシンプルなコンセプト以上にこのホテルでの滞在が印象的だったのは、宿泊客が滞在中に気持ちよく宿泊できるための細やかな気遣いをいたるところで感じることができたことです。
たとえば、1人でも2人以上でも気兼ねなく利用できる様々な形の椅子やソファがある1階のラウンジは、いつまでもそこに滞在できそうな居心地の良さを感じました。また、コンシェルジュカウンターの片隅には荷物が増えがちな旅行者のためにオーガニックコットンで作られたエコバッグが置いてあったり、エレベーターロビー前のコンソールテーブルにはバスケットに旬のフルーツが無造作に積まれ、「ご自由にどうぞ」と書かれたメモが一緒に置いてありました。そして、部屋の中には、オーガニックコットンで作られた抜群の履き心地の靴下がスリッパの代わりに提供されているなど、通常のホテルでは体験できないこのホテルならではのホスピタリティとアイデアが印象に残るホテルでした。
そして、客室のブルックリンブリッジが望める窓辺に置かれたラウンジチェア(ハンモック風!)に身を任せてアメニティで付いている地元産のコーヒーを片手にまったりと過ごした一日は極上の時間でした。この後にご紹介するホテルでも共通していますが、滞在中の心地よさを提供することは基本としてありつつ、最近のトレンドは空間デザインや仕上げ素材を選択する上で独自の強いコンセプトを打ち出し、滞在中の体験がお客様の印象に色濃く残るように工夫をしているホテルが多いように思えました。
MADE Hotel
次にご紹介するホテルはマンハッタンの南側のノーマッド地区(マディソン公園の北側エリア)に建つMADE Hotelです(https://www.madehotels.com/)。このエリアは人気のNoMad HotelをはじめとしてACE Hotelなど多くのデザインホテルがひしめいている人気のエリアです。MADE Hotelは2016年開業と比較的新しく、客室は108室と規模は小さめですが、そのこぢんまりとした雰囲気を上手くコンセプトとして生かしたインテリアデザインが印象的でした。
ちなみにこのホテルは、今回宿泊した7つのホテルの中でも個人的にもう一度泊まりたいホテルダントツ一位を獲得したホテルです。宿泊した部屋は比較的小さめの約17平米のスタジオタイプの部屋で、いわゆるワンルームの間取りをした部屋でした。こぢんまりとした室内と、部屋の窓越しに映る眺望もごく普通の部屋でしたが、そんな環境を忘れさせるくらい斬新で楽しいアイデア満載の室内デザインに、心が惹きつけられました。今回滞在した他のホテルももちろん居心地は良かったのですが、ここまで随所に遊び心溢れる仕掛けが施してある部屋は、今まで見たことがありませんでした。
このホテルは旅先の街で泊まった場所で我が家のようにくつろげる部屋を提供することよりも、知らない街をいかに楽しむかを全面に追求したような印象を受けました。
客室とバスルームを隔てる壁は木材を積み木のように積んでいたり、バスルームの内部壁には綺麗な色の釉薬が掛かった磁気タイルが張ってあったり。更に室内の照明器具のシェードは真鍮の塊を旋盤加工させて作ってあったり、ベッドのヘッドボードは堅木のフレームにインディゴ染めの布がざっくり編みこまれて作ってあるなどなど…とことん手の込んだディテールを極めたその設えに心が踊りました。
魅力あふれる客室以上に居心地が良かったのは、1階にある共用スペースです。
表通りに面したメインエントランスの内部は向かって右手がカフェ空間になっており、左側にはホテルのレセプションカウンターとエレベーターがあります。これより奥に進むとラウンジとバーがあり、バーから屋外にでる階段を上がると小さな秘密基地のような、周辺の建物囲まれてこなれた感じが独特の雰囲気を醸し出している屋外ラウンジがあります。
ロビーラウンジには体をまるっと包んでくれる深いソファや、木の造形がどこかアフリカを彷彿させるデザインのラウンジチェアや置物が置かれてあります。そこに腰掛けていると天井に大きく取られた窓から朝は暖かい陽の光が差し込み、夜は星空から落ちる淡い光が室内に広がる様子を感じることができました。大きい天窓が印象的なラウンジは全体的に木材をふんだんにあしらわれたデザインとなっており、まるで自宅のリビング位いるようなくつろげる空間を作り出しています。
ニューヨーク滞在が初めての私には、映画に出てくる見慣れた高層ビルの上から見下ろす風景とは違う、中低層のホテルのルーフトップバーから見える周囲に所狭しと、そびえ立つマンハッタンのビル群の眺めは、とても印象に残りました。滞在中の気さくでフレンドリーなスタッフの対応とともに今でも印象が強く心に残っているホテルです。
PUBLIC Hotel
最後にご紹介するのは、視察当時開業間もなくもっとも話題に上っていたPUBLIC Hotelです(https://www.publichotels.com/)。こちらのホテルはバワリー(Bowery)と呼ばれるエリアに建っていて、近くには日本の建築事務所SANAAがデザインしたNew Museum of Contemporary Artがあります。ここはマンハッタンの古い街並みが残るイースト・ヴィレッジ(East village)やリトル・イタリー(Littile Italy)からも程近く活気溢れるエリアです。
PUBLIC Hotelはマンハッタンでは珍しい新築のホテルで客室数は367室あり、スイスの建築事務所Herzog & de Meuronがデザインを手がけています。このエリアは周辺に高層の建物が少ないので、この大きなガラスが印象的な28階建てのホテルの外観は、離れた場所からも際立って見えます。ホテルの最上階にあるルーフトップバーからはイースト・ヴィレッジの街並みが一望できることと、有名人が連日訪れることで地元では話題になっているそうで泊まった日の夜もルーフトップバーに行くエレベーターの前には長蛇の列が出来ていました。もちろん宿泊客は列に並ばずバーに直接アクセス出来ます!
PUBLIC Hotelに泊まったのは視察も終盤に近づいてきた時点でした。7日間の視察で出来るだけ多くのホテルを体験するために毎日宿を変えていたので、ここは既に6件目のホテルでした。それまでそれぞれ個性のはっきりしたホテルに滞在してきたのですが、ここはそれまで泊まったホテルとはまた異なった個性があるホテルでした。その大きな違いはやはりデザインと空間の使い方にありました。
ホテルエントランスで特徴的だったのはレセプションが省かれていることです。通常のホテルに設けられている立派なデザインのレセプションカウンターとその前にあるような待合スペースがここにはありません。その代わりに壁面にズラッとPC端末が並んでいて、その端末でお客様自らがチェックインするようなシステムです。まるで空港のセルフチェックインのようでした。ただし完全に無人ではなく、スタッフがこのチェックインエリアに常駐していることでトラブルにも瞬時に対応していました。
従来のホテルにおけるレセプションカウンターと待合空間を省くことで、その分ラウンジ空間を広々と確保できます。それによって「ロビーラウンジ」とひとくくりに表現するのはもったいないと感じられる程、様々な場を作り出し、このホテルの売りの1つとなっている独自のラウンジ空間が作り出されていました。
ラウンジは大きく3つにわかれており、カジュアルなラウンジとソファラウンジ、個室ラウンジとに分けることができます。エレベーターから近いエリアは、カジュアルでプレイフルな場、その隣にはバーカウンターが続いており、夕方には大勢の人々で賑わっていました。比較的他人との距離が近いのがこのカジュアルラウンジでした。そしてバーカウンターの向かいには大きなラウンジテーブルとその周りをぐるっと一周する、奥行きの深い座り心地抜群なソファが配置されています。ここでは友人同士や一人で作業に没頭している人、Macbookとにらめっこしている人など、使い方は多種多様でした。
余談ですが、ニューヨークのカフェで見かけるラップトップはほとんどすべてApple社製品でした。Apple恐るべし。
このホテルで最も興味深かったのは、このロビーフロアに設置されたラウンジ空間でした。ふかふかのソファ、木とインドアグリーンをふんだんに使用したインテリアなど、ラウンジのサイズによらずどこも居心地の良さを第一の目標としているようでした。また、バーカウンターがあったり、大きなテーブルが設置されていたりと多種多様な方法で様々な場を演出していました。そして、パーソナルスペースを巧みに操作することによって、自然と人と人との間に交流が生まれる仕掛けを上手に作っていると感じました。
PUBLIC Hotelはこのほかにも斬新なデザインの客室や品揃えがお洒落なショップなど、話題に尽きないホテルでしたが、これらについてはまた別の機会にご紹介することにします。
様々なホテルに実際滞在してみて感じたことは、お客様にとって心地よく滞在できる客室を提供することはもちろんのこと、ラウンジ空間を単なるソファや椅子が置いてあるだけの空間ではなく、一人で利用しても、複数人で利用してもそれぞれの目的に合う居場所が提供され、そこにまた戻って来たいとお客様に思わせることの出来る共用空間を提供することが最近のトレンドになっているように感じました。現在都内某ホテルの共用部デザインを担当していますが、ホテルを利用されるお客様に”居心地の良いホテルだった”と思っていただけるような空間を提供出来るようにこれからも精進していこうと思います。
視察中のホテル探訪のレポートは以上です。次回は視察先でのニューヨーク満喫エピソードを番外編としてお送りします。