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海外視察2010
コペンハーゲン・オスロレポート 第二回

前回のコペンハーゲンレポートに引き続き、スタッフの成田より今回はノルウェーの首都:オスロの街をレポートします。

オスロ 2010. 08. 03 – 08. 07

オスロフィヨルドの最奥部に位置するオスロ市は、沿岸部に複数の入江をもち、臨海部に40の島からなるアーキペラゴと呼ばれる群島地形をもつ水辺の街です。地元の人々が勧めてくれる、水辺の街並みを一望できるスポットが山の上のスキージャンプ台というから、何とも北国らしい。この展望台から見渡せる、緑に埋もれゆくような都市景観は、とても一国の首都とは思えないほど、森が占める割合の大きさを感じさせます。(オスロ市の3分の2は、自然保護区に指定されているというのだから驚きです。)

沿岸部には、新たな建物や道路が建設中の砂煙に包まれた開発区画が多くあります。また街行く人々を見ると、非西欧圏からの移民の多さに気付きます。中にはジャンキーが焚き火を囲んで集まる公園があったり、どこの訛りかも分からない口調で、「One cigarette please.」と近づいてくるホームレスもいます。街としての未成熟さ、不安定さが見受けられるものの、逆にどこか沸々と煮え立つバイタリティのようなものが感じられる点は、先述のコペンハーゲンの成熟した街の印象と大きく異なります。

私はこの街で、現地の設計事務所で働く二人の建築家に出会いました。彼らとの会話の中で、オスロでは水辺の地区ごとに良好な景観形成を目的とした「デザインガイドライン」がつくられていることを知りました。建物やランドスケープ、ライティングなど様々なデザインの分野で思想や技術が多様化していますが、現在発展途中のこの街において、デザインガイドラインはまとまりある景観形成の礎として重要な役割を担っているそうです。

現在オスロ市は、オスロフィヨルド沿いの土地を再開発し、水辺に新たな市街地を形成する「フィヨルドシティ計画」を進めています。ピーペルヴィカという入江の西岸:アーケル・ブリッゲ地区開発は、その先駆けとなった計画です。1982年に閉鎖された造船所跡が、デザインガイドラインに基づき、複数のデザイナーの参画によって商業と住宅を中心とした複合的な街へと再開発された比較的新しい事例だそうです。入江の最奥部には、毎年12月にノーベル平和賞の授賞式が行われるオスロ市庁舎がシンボリックに構えます。水辺に沿って建ち並ぶアーケル・ブリッゲの建物軒高は市庁舎の軒高と概ね揃えられ、外装の色彩についても色調が合うように設定されています。ウォーターフロントの舗装材や、ストリートファニチャー、街路灯、夜間の演出光に至る様々な外構の要素は、地区全体で統一感のあるものになっています。アーケル・ブリッゲでは、建物やランドスケープをトータルに捉えた一体的な街づくりが実現されています。

ピーペルヴィカに隣接する入江:ビョルヴィカは、現在、新しい住宅や図書館、美術館などの建設ラッシュに湧きます。入江の最奥部に位置するのが、地区開発に先駆けて誕生したオペラハウス。真っ白なマーブル・ボディの真新しいランドマークは、明るい水辺を広く見渡せる南側ではなく、何故か西側に顔を向けています。緯度が高く、年間を通じて昼の短いこの街で生活する人々は、雄大なスカンジナビア山脈に沈む茜色の刹那に惜別の風情を感じ、西側に向かっているのだそうです。

私は、デンマーク、ノルウェー両国が「ヴァイキング」の国であったことを、冒頭に述べました。ヴァイキングが「略奪経済」を生業としていたと言う偏見について、北欧の人々は口を揃えて「NO!」と言います。ヴァイキングにとって、水辺とは戦いの舞台であっただけでなく、鍛冶の場であり、漁業の場であり、交易の場であり、仲間たちと集う場であり、仕事の疲れを癒す場であり、こども達にとっては遊び場であり学び場でもありました。

コペンハーゲン、オスロに暮らす人々は、古代史以来、生まれながらの「海の民(水の民)」として生き継がれています。グローバル化が一層進み多様な価値観が蔓延する現代にあってもなお、水辺と共にある暮らしへの大いなる憧れやこだわりが、街づくりの場面に表れています。

 


 

私たち日本人は、彼らとは少し違った切り口で「水辺」というものに向き合っているように思えます。四方を外海に囲まれた日本には、激しい潮の満ち引きがあり、地震による津波があり、台風による高潮があります。大雨が降れば河川はすぐに増水し、人々の生活を脅かします。「防潮護岸」や「防水堤防」という言葉に見受けられるよう、水とは、恐いもの、国土を脅かすものとして考えられる節があります。水を効率よく処理することができ、水から国土を強固に守るウォーターフロントこそが優れているという価値観が確立されているのです。

そんな中、近年、観光促進やエコロジーの観点から、日本の都市社会における水辺の価値が見直されています。
小さな島国、日本。地図を拡大すれば、水際線が無限大に入り組みます。国土面積に比して、これ程までに長く多様な水際線をもつ国が他にあるでしょうか。ところが海の向こうから眺める日本の水辺の現状は、あまりに虚しい。私は、新しい水辺開発のあり方を考えることが、ますます失われゆく日本人のアイデンティティを問い直す重要なきっかけの一つになるのではないかと思っています。水辺がもつ厳しい自然としての側面に対峙する中で、どうすれば魅力ある水辺をつくって行けるか。今回の視察を通じて、知り、感じ、そして悩んだことを、今与えられたフィールドで活かして行きたいと思いを新たにしました。

海外視察2010 コペンハーゲン・オスロレポート 全二回連載終了

Text and photo by Ai Narita

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