前回のレポートでは経済発展に伴い、急激にシンガポール国内で再開発が進められていることを述べましたが、私がシンガポールに出張する度に次々と新しいホテルがオープンされていることが驚きでした。ここでは、視察したいくつかの高級ホテル・リゾートホテルについてレポートしたいと思います。
マリーナベイサンズ(Marina Bay Sands)
私のシンガポール初訪問の2010年6月にグランドオープンしたマリーナベイサンズです。巨大カジノ、コンベンションセンター、美術館、ショッピング施設、シアターなどを含む複合リゾートであり、ホテル3棟の頭上に空中庭園スカイパークが建設されたことで世界中の話題を集めました。地上から200m上空で360度の眺望を楽しめるスカイパークの一番の目玉は、全長150mのインフィニティ・プールです。プールの水面が永遠に続くような視覚効果を取り入れて、プールの向こう側に超高層ビルが浮かんでいるように感じさせる景色はすばらしいです。プールは宿泊客しか利用できませんが、展望テラス、カフェ、レストラン等の設備は一般公開とされています。これだけの設備を有しているのにも関わらず、屋上には排気塔、屋上設備等を出さない工夫をしています。グレードの高い客室でないとバスタブは無く、シャワーも固定式です。水着にバスローブを羽織り部屋からそのまま屋上プールに直行できるシステムなので、廊下・EVホールにはバスローブを羽織っている人が見られます。エントランスロビーや客室は意外とシンプルで、商業的なホテルの印象を受けました。設計はモシェ・サフディ。
ザ・フラトン・ホテル・シンガポール(The Fullerton Hotel Singapore)
マーライオンの近く、シンガポール川に隣接する歴史的な建物は、1996年まで中央郵便局として使われていましたが、再開発により改装され、2001年に開業しました。建物の外観からは想像が付かない別世界のようなアトリウム・ロビー空間には、優雅な時間が流れています。7層の吹き抜け中央アトリウムから1階まで降り注ぐ光と植栽・きめ細やかなインテリアデザインによって落ち着きのある雰囲気が味わうことができます。比較的客室は広く、ラグジュアリーな内装や雰囲気によって、高級感が感じられます。シャワーブースが独立しているのが特徴で、バスルームはフィリップ・スタルクのデザインだそうです。
カペラ シンガポール(Capella Singapore)
復元された伝統的な建築に隣接して設計されたノーマン・フォスターによる現代的な建築が融合して構成されています。美しい自然に囲まれた伝統的な建物には、ラウンジスペース、高級レストラン、一部の客室が入っていて、フォスター設計の建物には主に客室、レストランが入っています。建物の外観に関しては、新旧のデザイン要素が見事マッチされ、違和感無くバランスが取れています。開放的で繊細なデザインは完成度が高く、また、屋外に展示されたアートやランドスケープによってくつろげる空間となっています。
ハードロック・ホテル(Hard rock hotel)
ユニバーサルスタジオ、水族館、カジノの隣という位置関係から、家族連れをターゲットにしています。このホテルは、マイケル・グレイブスが設計したリゾート「ワールドセントーサ」内にあり、家族が一緒に楽しめる様々な工夫、例えば、屋外ライブステージ、障害者用施設、子供用プール、屋外プール, ビーチバレーコート、キッズクラブといった施設が備えられています。シンガポール最大の屋外プール、人口の砂のビーチでリゾート気分を楽しめるのは最大の特徴です。一見繋がっているかのように見える屋外プールは、段差、飛び石の通路、架け橋などを利用して、プールバー、ジャグジー、子供遊び場、子供用プールなど細かく分かれています。ビーチにいるかのような開放感あふれた屋外プールでは、熱帯リゾートの気分が味わえます。
ザ セントーサ リゾート アンド スパ(The Sentosa Resort n Spa)
水の中庭を中心に客室や様々な施設が広い敷地内に点在しています。これらの施設がコンパクトに配置され、屋根付きのオープンな回路で繋がっていて、次々と中庭のランドスケープのシークエンスを楽しめます。ロビー、ダイニング、カフェやバーなども半屋外で開放的な空間として設計されています。これらの空間には野生の孔雀や鳥が自由に現れ、また、池に咲く蓮の花や南国植栽にも癒されます。開業して20年も経っているにも関わらずメンテナンスが行き届いている為か古い感じはなく、回路や中庭が広すぎず狭すぎない絶妙の空間となっていて、アイストップには印象的な植栽がよく使われています。基本的には直線とシンメトリーで構成されていて、色や素材が抑えられたデザインになっています。設計はケリー・ヒル。
ダブリュー シンガポール セントーサ コーヴ(W Singapore Sentosa Cove)
セントーサ島東部に高級ブティックホテルとして3年前開業しました。デザイナーズホテルということで話題になったこのホテルは、細部にいたるまできめ細やかなディテールによって凝ったつくりとなっています。ホテルのデザインには、セントーサ島の自然や植物を取り入れており、ホテル内には様々な植物のモチーフが彩られています。シンガポールの国花でもあるバンダ・ミスジョアキムをモチーフとしたパターンがよく見られます。客室はモダンな装飾やムード照明を取り入れたインテリアになっていて、間接照明の色まで変えられる遊び心をくすぐられる工夫をしています。エントランスホール、ラウンジ、バー、客室には個性的な家具とオブジェクトとしてのLED照明が配置されていて、全体的には鮮やかな紫色で統一されています。設計は、建築家集団 WATG とデザイン会社ロックウェル・グループ
パークロイヤル・オン・ピッカリング(Park Royal on Pickering)
シンガポールで使われているグリーン建築評価制度「BCAグリーンマーク」のプラチナ賞を受賞したホテルです。クラークキーとチャイナタウンの近くの中央ビジネス地区に立地しながらも、「ホテル・イン・ザ・ガーデン(庭園の中にあるホテル)」というコンセプトのとおり、外観にも植栽が生えていて、共用部・通路・バルコニーにも緑や水が多く感じられます。16階の屋上庭園にはトンボが飛び回っていて、5階にある4階建てのスカイガーデンには、プール、スパ、フィットネスがあり、一周できる高低差のある散歩コースも設けてあります。客室は明るい木調で仕上げていて、客室に向かう通路が外に面していて自然採光で明るく、片側は壁面緑化であふれています。雨水を再利用、太陽光発電、LED・自動照明で節電、全館禁煙といった環境への配慮が高く評価されていて、「未来ホテル」としても注目されています。設計は、シンガポールを拠点としている建築家集団「WOHA」。
以上シンガポールレポートでした。