シンガポール市内 今回のスタッフリポートは、シンガポールで我々がデザインをした集合住宅「Nathan Suites」 プロジェクトの担当者であるスラズ・プロダンがお送りします。2011年05月の着工以来、何度も現地に訪れているシンガポール市内の街の様子や、視察した建築作品、今回の工事中のプロジェクトについてレポートします。 シンガポールは、日本から南西方向へ約5000Km、東南アジアのほぼ中心(赤道直下の北緯1度17分、東経103度51分)に位置します。国名の意味は「ライオンの街」。古代サンスクリット語の「ライオン(Singha)+街(pura)」からの由来となっています。おなじみのマーライオンは、シンガポールを代表する有名な観光名所となっています。
シンガポールは東京23区程の小さな島で、他民族の都市国家です。中華、マレー、インド、アラブなどの多様な文化に接することができます。チャイナタウン、リトルインディア、アラブストリートではそれぞれの文化に触れ、独自の世界観を楽しむことができます。 まず、最初に驚いてしまうのは、訛りや独特の言い回しがある英語。「シングリッシュ」とも呼ばれるシンガポール英語は、イギリス英語にマレー語、タミル語、中国語などのエッセンスが加わり変化を遂げたシンガポール独自の英語で、異なる民族間や観光客との会話に良く使われています。
シンガポール英語は「主語の省略」や「時制による動詞の変化が無い」など、最初は分かり辛いこともあるのですが、慣れると簡単に英会話を楽しめます。分かり易く言えば、過去形を使わず、動詞を変化させずに「today」「yesterday」「already」などと付けて会話をする。多民族多言語を象徴するように、街には四つの言葉で書かれた看板を目にすることができます。 他民族が集まる「ホーカー」と呼ばれる屋台やフードコートではシングリッシュが飛び交います。シンガポールでは、自炊よりも外食する習慣があり、屋台の集合したスペースが大小問わず多く存在します。シンガポール国民には欠かせない台所となっていて、中華風、インド風、マレー風、様々な種類の安くて美味しい料理を楽しむことができます。よく観察すると、ホーカーのテーブルにはティッシュ、ストラップなど小物が散らかっていることがありますが、これはゴミではありません。実はお客さんが席をリザーブしている意味になるので、要注意。ホーカーをご利用の際には、まず、自分が持っている小物で席を押さえることをお勧めします。
シンガポールは、東南アジアのビジネスハブとして目覚しい経済成長していて、ビジネス面からも注目されています。チャンギ空港から約20分の距離に位置する中心部には、近代的な高層ビルが林立する一大ビジネスシティです。また、世界各国の有名な建築の作品も建ち並び、建設中の建築も多く見られます。欧米諸国の企業、そして日本、中国、韓国、インドなどアジアからの外資企業進出もかなり多くみられます。英語を話す人が多い事や、国家的に外資誘致が積極的に行われていること、また、近隣諸国へのアクセスがよいことなどから、シンガポールに拠点を置く企業が増えているようです。 経済の発展に観光産業も重要とされ、ユニバーサルスタジオ、世界最大の観覧車「シンガポールフライヤー」、大型ショッピングセンター、総合リゾートホテル「マリーナベイサンズ」ガーデン・バイ・ザ・ベイなどの新名所が次々とオープンしています。 そして、このシンガポールの経済発展には、この土地の気候も大きく関わっていると考えます。一年中気温と湿度が高く、降雨量が多い熱帯雨林気候のこの地では、一年中泳ぐことができ、いつでも天候に左右されないリゾート気分が味わえるからです。さらに、高級リゾート地としてシンガポール島の南に隣接するセントーサ島の開発も進んでいます。
シンガポールでは、街の至る所に水と緑が使われていて、自然の豊かさを感じることが出来ます。この街では、貯水池や川等に面して、共用施設、レストランやバー、クラブやカフェなどの商業施設が並ぶウォーターフロント開発が数多く見られ、いつも人々の賑わいが感じられます。ウォーターフロントをリバークルーズで巡りながら、これらの施設も堪能できます。シンガポールの美しい街と建物を水上から眺められ、また、クラーク・キー、ボート・キーというエリアは19世紀の倉庫街を改造した場所で、川沿いに沢山のレストランやディスコ、クラブ、バーなども楽しめます。倉庫をリニューアルして作られたレストランやバー等、観光客が集まる有名なスポットとなっています。オープン・スペースに並べられたテーブルで、対岸にあるエンプレス・プレイスの夜景を眺めながら食事が楽しめます。
シンガポールでは世界中から企業が集まってるため、先進的な建物の建設や再開発も急ピッチで進められています。しかしその反面、歴史や文化を感じさせる古い町並みもきれいに復元・保存されているのです。ジョー・チアット通り、ブレア通り、チャイナタウンには、西洋建築の要素と中国風の屋根瓦などの要素を融合された色とりどりの美しい「プラナカン様式」の建物が並んでいます。15世紀後半からマレーシアやシンガポールにやって来た、中国系移民の子孫のことを「プラナカン」と呼び、彼らはこの地に住んで、中国文化にマレー文化とヨーロッパ文化をミックスさせ、独自の生活スタイルやプラナカン様式の建築物を築きあげました。 また、これらは「ショップハウス」と呼ばれていて、殆どの建物が1階は店舗・事務所で2、3階が住居として使われています。また、整然と並ぶ建物の1階には、ピロティが連続してつながっていることが主な特徴です。熱帯モンスーン気候のため、特に6月~8月は日差しが相当強く、雨季(10~3月)と乾季(4~9月)にも1-2時間ほどの短時間の間に強いスコールが頻繁に降る、この土地ならではの気象条件から、ピロティが日常的に通路やカフェ・レストランの空間として利用されています。
今回のNathan Suitesプロジェクトは、中心部から車で約20分の距離の住宅街に位置するタワーマンションです。タワーの足元には、スイミングプールと緑豊かなガーデンが配置されます。 このタワーの外観デザインは、鳥が飛び立つ翼の動きをモチーフとしていて、バルコニーの形状がこれから飛ぶ鳥のように上空へ上昇するようにツイストしています。入居者の方が日々を誇りに思えて、幸運が上昇するようにと願いを込めて、中国語で”発財”という繁盛祈願のお祝い言葉を、今回のデザインコンセプトに取り入れています。地上から立ち上がったタワーが上昇し、ゆっくりと鳥が翼を広げ天空へ羽ばたいてゆくような、デザインイメージです。
このタワーは、生命とエネルギーを象徴する水と樹木からなる「禅ガーデン」に囲まれていて、水の噴水、流れ落ちるカスケッド、水面の反射など活気ある雰囲気を生み出し、入居者がリフレッシュして穏やかな心を持てるように大きなガーデン空間を与えています。建物の足元に広がる、4層の高さからなるピロティ空間には、ファンクションルーム、ジムといった共有空間が設けられていて、開放感の高い空間となっています。 そして、クライアント、ローカルアーキテクト、ゼネコンと質の高い建築を実現にあたり、現場で実際に材料の確認、また、実物のモックアップを通してディテールと色彩の確認を行っています。
今年の10月に竣工の予定ですが、現在は、22階まで建ち上がり周辺に対して羽を広げ、そびえ立つ形が見えてきました。今から完成が楽しみです!
次回はシンガポール滞在中に視察した高級リゾートホテルのレポートと、市内に多数存在する有名な建築物についてレポートします。お楽しみに! Text and photo by Suraj Pradhan