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マスタープランの重要性

MASTER PLANNING

まちの付加価値を高めるマスタープランとは

Introduction

JMA/PC&PJは、これまで数多くのマスタープランを作成し、まちづくりの一端を担ってきました。まちづくりにおいては建築を「単体」ではなく「まちを構成する1つの要素」として捉えることが大切であり、それには「面的な視点」が欠かせません。

JMA/PC&PJ では、建築・ランドスケープ・インテリア・ものこと(プロダクト・サインなど)の各分野のスペシャリストがまちのコンセプト作りから参画し、それぞれの領域や境界に留まらない、広い視野でまちづくりを展開しています。

今回の座談会では、JMA/PC&PJのマスタープランに大きく貢献してきた4名のスタッフが、これまでの経験をもとに、プロジェクトを遂行する上で大切にしていること、JMA/PC&PJだからこそ実現できるまちづくりについて語り合いました。

PEOPLE

  • Kazuhisa Otsu大津 和久

    執行役員、関西オフィス 所長

    主な実績:幕張のまちづくり、摩耶のまちづくり、あべのハルカス、パークタワーグランスカイなど多数。

  • Hiroshi Furutake古竹 大志

    シニアアソシエイト

    主な実績:HARUMI FLAG、フォーシーズンズホテル & ホテルレジデンス京都・車寄せ、J.GRAN湘南平塚、日本橋三井タワー、三井二号館 改修など多数。

  • Miki Takeda武田 美紀

    アソシエイト

    主な実績:H.U. Bioness Complex、プレミスト首里金城町、ローレルタワー堺筋本町など多数。

  • Yakuto Endo遠洞 躍斗

    ランドスケープデザイン室 アソシエイト

    主な実績:幕張ベイパーク ミッドスクエアタワー、Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘 BLOOMING RESIDENCE、白金ザ・スカイ、ローレルタワー堺筋本町など多数。

経験を通して感じるJMA/PC&PJのまちづくり

大津
これまで多くのまちづくりに携わってきましたが、大別すると次の二つに分けられます。一つ目は幕張のまちづくりです。これはZGFアーキテクツ(*以降ZGFと省略)とともに幕張若葉住宅地区のマスタープランを作るところからスタートしました。ZGFはアメリカの建築設計事務所で、実際に我々も「全米で最も住みたい街」といわれるポートランドへZGFが手掛けたまちづくりの視察に行きました。現在(2023年3月時点)A,B1~B7街区の全8街区の内、A街区の一部、B7、B2街区が竣工し、B3、B5街区が建設中で、私自身はマスターアーキテクトとして全体の調整役として関わり続けています。 二つ目は摩耶のまちづくりです。A-G街区の全7街区で、JR神戸線沿いに約1㎞に渡って配置されており、JMAの異なるデザイナーが街区ごとにデザインを担当し、2021年に全街区が完成し街開きを迎えました。当初計画にはなかった病院やスーパーマーケットも参画し、現在では多くのファミリーで賑わう街になっています。
武田
摩耶は何年くらいかけて今のようなまちになったのでしょうか?
大津
JMAが参画した事業者選定コンペから数えると14~5年かけて現在のようなまちになりました。
古竹
幕張ではマスタープランの他に、デザインのルールや規制を書いたデザインガイドラインも作成したと思いますが、摩耶もデザインガイドラインをつくったのでしょうか?
大津
摩耶では「六甲山の山並みと呼応」「横通しの動きのあるデザイン」など緩やかなルールは設けました。幕張はデザイナーが未選定だったのでデザインガイドラインが必要でしたが、摩耶は全街区のデザイナーとしてJMAが選定されていたので、ガイドライン作成まではいかず緩やかなルールで実施しています。幕張はデザインガイドラインを理解した上でデザインの競演が見られていますし、摩耶は全街区JMAデザインなので隣り合う街区との関係性が十分に保たれ、各街区に配されたJMAデザイナーの個性も発揮されている「一貫性」と「多様性」がバランスするまちになっています。
古竹
私が初めて携わったのはHARUMI FLAGです。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の選手村としても利用されたレガシー施設となるまちで、広大な敷地に建ち、三方向が海に面する立地が特徴です。建築、インテリア、ランドスケープの垣根を越え、沢山のデザイナーが協働しました。JMAは配棟計画から参画しマスタープランを作成、その後のデザイナー達の参入に向けてデザインガイドラインも策定しています。
大津
更地からの湾岸開発という意味では豊洲のまちづくりも同様です。マスタープランを作ったことで快適に楽しく歩けるまちに変貌しました。HARUMI FLAGもマスタープランやガイドラインのおかげで人々にとって快適なまちが実現できそうですね。住居以外にはどんな用途が入っているのでしょうか?
古竹
HARUMI FLAGの低層部には商業が入り、大通りの賑わいを創り出します。周囲も含め全体的なマスタープランを作成しているのですが、隣接した場所に学校やスーパーマーケットも入る大きな商業施設、公園が出来る予定で、突端にはカフェもできました。
大津
マスタープランを作る上では用途構成がとても重要ですよね。
古竹
そうですね。色々な用途が組み合わさって多様な人々が訪れることで、より良いまちは形成されると感じます。配棟計画では楽しく歩けるまちというのも大切ですね。
大津
実際は60メートル区画でも遠く感じることがあります。ウォーカブルなまちを目指して30~40メートル区画でオープンスペース等が計画された学校や高齢者施設を作ろうと議論が進んでいるプロジェクトもありますね。
武田
オープンスペースでは「敷地境界」の問題がよく挙げられます。敷地内だけで完結しようとするから良いまちづくりができないと言われることがありますよね。
遠洞
官民・民民の敷地境界は行き交う人々のオープンスペースに分断を生みがちです。JMA/PC&PJのランドスケープではより良いまちをつくるために視野を広げ、敷地境界を越えたまちづくりを展開しています。これはランドスケープでしか成し得ない使命だと思い、日々の業務を行っています。
大津
豊洲大崎・五反田地区のまちづくりでも敷地境界については幾度となく行政と調整を重ねました。その結果、一体的なデザインの歩道やオープンスペースが実現し、美しいまち並みになっています。建築を「単体としてではなく面として捉える」という点でH.U. Bioness Complexはいかがでしたか?
武田
H.U. Bioness Complexは臨床検査技術のH.U.グループの新たな拠点として計画されました。「バイオフィリックビレッジ」をコンセプトに12ヘクタールの敷地に、1000人以上の従業員が働けるオフィス群を提案をしました。配棟計画では1棟で完結させる案も候補に挙がりましたが、広大な敷地を1つのまちと捉え、異なる機能の4棟分散配置にし、回廊でつなぐという結論に至りました。敷地中央にはブランディングの象徴となる生命感溢れる中庭を設け、神経回路のような回廊を人々が行き交い、偶発的な交流が生まれる計画となっています。
大津
12ヘクタールというとかなり広大な敷地ですね。
武田
そうなんです。先ほど60メートル区画の話がありましたが、要となる中庭の大きさはどれくらいが適切か、周囲の回廊の長さにも直結するのでその距離感にとても悩みました。
大津
レストランなど遠すぎると使いづらいし、近すぎると気晴らしになりませんよね。
武田
結果的にはエントランスやレストラン、回廊など、相互に見たときに人々の賑わいや様子がわかることがまちの一体感に繋がる大事な要素だと考え、最長距離を70メートルに設定しました。
古竹
H.U. Bioness Complexの竣工からしばらく経ちますが、現在はいかがですか?
武田
本格稼働を2022年に迎えたばかりですが、沢山の方々が各施設から回廊を介してレストランまで出向き、連日賑わっていると伺っています。職員の方々にどうリフレッシュしてもらうかが課題だったのでとても嬉しいです。バイオフィリックな環境と、中庭を囲むことで得られる生命感がH.U.グループのブランディングとしてまちづくりに活かせたと思っています。

ニューノーマル時代。これからの場所の在り方とは?

大津
ランドスケープには数平米から数ヘクタールまで様々な規模がありますが、遠洞さんはプロジェクトによってどうやって思考を変えているのですか?
遠洞
思考を変えるのではなく「機能と人の行動」から考えます。新型コロナウィルス感染症(以下、コロナと省略)をきっかけに公園などのオープンスペースはハード面ではなく、ソフト面がより求められるようになったと感じています。
武田
確かにコロナをきっかけに、屋外空間の捉え方が変化し重要性が増しましたよね。
遠洞
屋内空間よりも、屋外空間や半屋外空間の充実が求められているように感じます。管理面だけでいうと大変さは増えるのに、レストランもテラス空間が重宝されていますよね。
古竹
日本橋室町三井タワーのアトリウム空間にはWI-FIも完備され、冬場はストーブが設置され、快適に長時間過ごすことができます。隣接する三井二号館もテラス空間をリニューアルで設けるなど、日本橋のまちづくりにおいても以前にも増して空間の利用の仕方を議論するようになりましたね。

「マスタープラン」と「ランドスケープ」の関係性とは?

遠洞
日本のマスタープランは建物配置など「建築の線」から始まりがちだと感じます。人々にとってのまちは「オープンスペースのつながり」でできているので、本来のマスタープランは、ランドスケープの機能配置やつながりを大きく捉え、そこに必要な建築を配置するのが理想の姿ではと考えます。
武田
一般的に建築ありきで、その外がランドスケープ、その内がインテリアと分業が始まっていくイメージがありますが、JMA/PC&PJの環境にいるととても違和感を感じます。
古竹
JMA/PC&PJの強みは、建築・ランドスケープ・インテリア・ものことの専門スタッフが一緒になって計画段階からデザインを考える点だと思います。ランドスケープから見て建築がどうあるべきかを理解しつつマスタープランを考えるよう、相互に関係し合う土壌がJMA/PC&PJには備わっていますよね。特にマスタープランの中でのランスケープの役割は重要です。
遠洞
規模が大きくなればなるほど、そのまちのイメージをつくるのはランドスケープだったりしますよね。芝浦アイランドのまちづくりは、遠景から見た超高層の眺めが特徴的ですが、1つの島としてのブランディングに大きく寄与しているのは外周約1.6kmにもおよぶランドスケープがつくり上げた世界観だと感じます。

付加価値を高めるまちづくり

古竹
HARUMI FLAGはランドスケープのコンセプト「水に浮かぶ環境都市」としてデザインされ、豊かな緑地や開かれた中庭もあります。HARUMI FLAGの特徴として、車はまちの入口で地下駐車場へ入っていく「歩く人々最優先の計画」も挙げられます。まちの中心でそれぞれの建築が顔となり、広場を形成しているのもマスタープランがあるからこそです。まさに人のためのまちができていると感じます。
大津
幕張のまちづくりも同様です。街区外側の幹線道路から駐車場へアクセスし、LONE PARK/若葉三丁目公園周囲には可能な限り車が入らないようになっていて、まちの構造が明快です。
遠洞:
HARUMI FLAGや幕張のまちづくりもまちの構成がわかりやすいことが魅力的なまちづくりの要因として挙げられます。人の動線が確立し、ランドスケープとしてデザインされ繋がっている。デザインもそうですが、認識してもらうことが重要で、認識してもらうためにはわかりやすい画が必要です。
武田
マスタープランをつくるとまちは一度完成しますが、その後の変わりゆく環境に対してどうやって変化・対応させていくかも大切ですね。
大津
その通りだと思います。幕張には幕張ベイパークエリアマネジメント「B-Pam」という組織があります。住民の方々が先導して街を運営していく仕組みで、サイン計画などがガイドライン化されており、まちの統一感を担っています。
遠洞
スマートシティの先駆けとして開発が進む柏の葉のまちづくりもガイドラインをもとに積極的に運営され、まちがどんどん成熟していますね。
古竹
まちづくりのガイドラインで「まちを育て、豊かにする仕組み」をつくるだけでなく、誰がそれを運営するのかまできちんと議論することがまちの付加価値に繋がっていきますね。

次にJMA/PC&PJが目指していくまちづくりとは

大津
JMA/PC&PJで初めてのまちづくりは大崎・五反田地区でした。それから武蔵小杉豊洲幕張など、色々なまちづくりに携わってきました。特に武蔵小杉大崎・五反田地区においては以前のまちのイメージが刷新され、多くの人が働き、住み、まち全体の価値も上がってきているように感じます。住みたい、働きたいまちを面として広げていくのがマスタープランの意義ともいえるでしょう。人々の生活は日々変化していきますが、求められるスタイルを常に考えながら先を読み、これからも素敵なまちをつくっていければと思います。JMA/PC&PJが携わったまちを見返して、その変化をみるのもいいですね。できて終わりではなく、振り返って学ぶ。やっとJMA/PC&PJのまちづくりもそのフェーズにはいってきたように感じます。またマスタープランを作る機会はまだまだ都心を中心とした首都圏ばかりです。培ってきたマスタープランのノウハウを地方や世界にも広げていけるよう努めていきたいですね。
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対談で出てきたプロジェクトについては下記弊社WEBサイトで御確認出来ます。
幕張のまちづくり
摩耶のまちづくり
豊洲のまちづくり
大崎・五反田地区のまちづくり
武蔵小杉のまちづくり
H.U. Bioness Complex

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