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私たちが考えるホテルデザイン

OUR HOTEL DESIGN

新しい時代と文化をリードするホテルデザインとは

Introduction

JMA/PCPAJは、様々なタイプのホテルを国内外で手掛けています。JMA/PCPAJには、建築、ランドスケープ、インテリア、ものこと(プロダクト・サインなど)と各分野のスペシャリストが在籍しています。こうした各分野の融合が、ホテルデザインにおいても様々な可能性を広げています。

各分野のスペシャリストたちは、クライアントの要望だけでなく時代の流れや、歴史、環境、文化など様々な要素を読み解き、長く多くの人に愛されるホテルをデザインすべく、日々思考し、提案し続けています。

今回の座談会では、JMA/PCPAJのホテル案件に大きく貢献してきた4名のスタッフが、これまでの経験をもとに、クライアントだけでなく利用するゲストや取り巻く全ての人が満足出来るホテルにするために重要なこと、そしてこれからのホテルの在り方について語り合いました。

PEOPLE

  • Shigeki Irie入江 茂樹

    執行役員、プロジェクトディレクター
    一級建築士

    主な実績:京都悠洛ホテル二条城別邸 Mギャラリー、TOYOSU BAYSIDE CROSS、HOTEL CANATA KYOTO、日本コカ・コーラ新本社ビル

  • Taido Yamano山野 太道

    インテリアデザイン室 室長

    主な実績:ダブルツリーbyヒルトン沖縄北谷リゾート、ヒルトン沖縄北谷リゾート、アークヒルズ仙石山森タワー、東京国際空港(羽田)国際線旅客ターミナル

  • Erika Abe安部 絵理香

    アソシエイト

    主な実績:京都悠洛ホテル二条城別邸 Mギャラリー、プレミスト有明ガーデンズ、プレステージ・インターナショナル 秋田BPO横手キャンパス、BAYZ TOWER & GARDEN

  • Satoshi Matsumoto松本 賢

    ランドスケープデザイン室 室長

    主な実績:三井ガーデンホテル六本木プレミア、三井ガーデンホテル豊洲ベイサイドクロス、プレミスト有明ガーデンズ、Tsunashima サスティナブル・スマートタウン

多様化するホテルの在り方を考える

山野
最近はホテルの使われ方も多様化していて、単に「旅先の宿泊施設」ではなくなってきています。遠くへ行かなくても、ホテルを交えると気軽に「非日常」が味わえる。多様化する需要に応えるように、様々なホテルがオープンしていますね。僕自身も、ショートステイでちょっとだけ特別な空間を味わえる機会という使い方にホテル体験が変わってきました。
安部
泊まらずにホテルの中にあるバーや、レストランだけを楽しんだり、ちょっとした楽しみになりますよね。
山野
“ホテル=楽しい”という感覚が増したと思う。泊まるというよりも、夜ご飯を食べに行くような、もう少し気軽な感覚が増してきていると感じます。
入江
楽しい体験には見た目のデザインも大切だけど、サービスも大事だなと思いました。強羅のとあるホテルに泊まったのですが、フロントでのチェックインから客室の移動までに、私が左利きと見抜き、その後の食事の際には料理を左から出してくれたんです。そういうサービスがOSE(運営備品)の質が良いということよりも嬉しいですね。名前もすぐ覚えてくれました。細やかで丁寧なサービスもホテルの質を上げる要因になりますよね。
松本
一方で、気遣いのサービスも過剰だと逆に心地よくない事もありますよね。いい距離感をとってくれるサービスというのも必要ですよね。
山野
最近のホテルはフレンドリーな雰囲気で過剰なサービスはしないところも増えてきましたよね。ただ日本的な「おもてなし」を大切にしているホテルもあり、いろいろな選択肢があって、サービスを選べるという考え方もあります。ホテルのサービス自体も多様化が進んできましたね。
松本
コロナ禍でホテルでの対面のやり取りに変化とかは感じますか?
安部
ありますね。受付の時、以前まではフロントのデスクで書いていたものを、エントランスラウンジのソファに座って受付をするところが増えている気がします。フロントまわりに人溜まりを作らない工夫をしていました。
山野
ロビー空間はホテルの在り方を体現する重要な場所の一つ。一般的には、みんなが知っている都心の有名なホテルはカウンターがあって、荷物を置く場所があって、という空間構成になっていることが多いです。一方、沖縄ではゆったりとした時間を過ごしたいというお客様視点の捉え方をした空間になっているし、サービスもそれによって変わっていると感じますね。
安部
何階にメインエントランスがあるかもホテルによって異なり、価格帯の高いホテルは中層階や上層階にあったりしますよね。
入江
ビルの場合、1階に車寄せ、ベルマン、上でチェックインなど―1棟ごとホテルになっているケースもありますね。
山野
僕も眺望はホテルを選ぶ時のポイントになるし、タワーの上層階にあるホテルはそれが売りになりますよね。一方で内部は、エントランスから客室までのシークエンス、全てにどうデザインで物語を作れるかが大切だと感じます。
松本
三井ガーデンホテル六本木プレミア(以下六本木ホテル)は最初からロビーは1階を予定していましたが、設計初期には1階にカフェも提案していて、それをすり抜けると受付があるという都会的な雰囲気がいいのでは、と考えていました。
山野
どこにエントランスを配置できるかは重要で、前面道路の交通量や、人が居心地の良いと感じる空間の作り方などが求められます。
松本
それでいうと京都悠洛ホテル二条城別邸 Mギャラリー(以下Mギャラリー)は、二条城側の路地から入り、結構狭いアプローチから奥へつながるシークエンスとしていて、これは京町屋をイメージしたデザインになっていますね。

「らしさ」を考えたホテルデザイン

安部
観光地のホテルは「知識量」と「“らしさ”を考える」ことがポイントでした。Mギャラリーが建つ京都という土地の深い歴史は、自分が調べてもなかなか知識が及ばず苦労しました。京都へ観光で来る人の方がよく知っていたりします。1番初めに知っておかなければいけないポイントがいっぱいあり、京都らしさってなんだろう?と、そこを理解することがとても大変でしたね。
山野
具体的には、デザインにどう取り入れました?
安部
松本さんが言ったように、入り口は細い路地をジグザグと進んでいく構成として、最終的には狭かったところから開かれたエントランスロビーにして緩急をつけました。お堀と城壁で囲まれた森の中にあるという、特別感を内部に入った後に感じるように取り入れました。
松本
一方で、Mギャラリーと同じく京都二条城を目の前に位置しているHOTEL CANATA KYOTO(以下CANATA)の違いはどこですか?
入江
京都は観光しに来る人が多く、様々なところを回ってホテルに着く頃には疲れていますよね。だから「何もしなくていいホテル」がコンセプトでした。必要最低限、インテリアも木や真鍮などの素材だけが生きて、余計な装飾をできる限り省いています。二条城を見るという考え方は一緒ですが、Mギャラリーはいわゆる京都らしさをテーマにしたのに対して、CANATAは主流になりつつあるカードキーではなく、いわゆる「鍵」を使わせるなど、アナログで人の温もりを感じられるホテルを目指しました。
山野
京都だと景観の制約が多いですが、そのあたりはどのように工夫しましたか?
入江
CANATAでいうと、景観の観点からガラス手すりを採用するのに、両サイドに袖壁をつけて、開放性と景観とのバランスを工夫しました。Mギャラリーは、屋根を二重に設えて細やかさや陰影を表現したり、簾と手摺のルーバーとの開放性のバランスを見て景観に配慮したり、CANATAとは異なった手法で解いています。
安部
そうですね。Mギャラリーでは周囲の街並みは同じサイズの町屋の瓦屋根が並んでいたので、屋根の高さと瓦を合わせ、軒をつなげました。この辺りは京都の景観の勉強になりました。
入江
CANATAを設計している時に、日本で横長の客室の事例が少ないなど、ホテルのセオリーをあえて気にせずに取り組んでいる部分はありました。ただ、元々のセオリーに囚われずやったことで、唯一無二の客室を作ることができ、結果的に面白くなったと感じています。
松本
この二条城を眺められるロケーションでワイドビューがとれる横長の形は良いですよね。
入江
二条城と反対側に位置する客室は読書をしたり、部屋の中で楽しむつくりにしました。まるで自分の部屋のように。小規模だからこそ、つくりの異なる部屋を用意して、何回も泊まりたいな、と思ってもらえるホテルを目指しました。
安部
一方でダブルツリーbyヒルトン沖縄北谷リゾート(以下ダブルツリー北谷)は規模が大きめですが、規模が大きいホテルならではの経験は何かありましたか?
山野
ブランドホテルの場合は全世界共通のスタンダード(基準)が数多くあり、ダブルツリー北谷ではその基準となっているスタンダードの意味を探っていくことが重要でした。例えば、沖縄は台風が多いので、バルコニーの家具を各客室内にきちんと収納できるようにするなど、既存のスタンダードを超えて提案する必要がありました。ルールを知ると面白いですよ。
松本
ほかに特徴的なスタンダードってどんなことがありました?
山野
一例ですが、ベッドヘッドの高さにもスタンダードがあって、ベッド上に座っても頭が当たらない問題ない高さ、としていました。頭上にアートを置いていけないなど、色んなホテルでスタンダードの考え方が違います。
入江
都心型1棟ホテルの六本木ホテルと豊洲ベイサイドクロスの上層階にある都市型複合ビルホテルの三井ガーデンホテル豊洲ベイサイドクロス(以下豊洲ホテル)を両方経験しているのは松本さんですが、その違いはどう感じましたか?
松本
まず、ロケーションが全然違いますよね。例えば六本木の繁華街に建つ六本木ホテルは、何を持って特別感を出すか。ランドスケープでは、アイレベルで特別な空間だとわかる、とはいえ外の喧騒とは切るというデザインを目指しました。インテリアではファブリックレイヤーによる外界との切り離しを行いましたが、ランドスケープでも常緑樹、落葉樹で2つのレイヤーを作り、中に入った特別感、外から見た時と中から見た時を変えていくなど、細かく配慮しました。

ホテルにおけるランドスケープの可能性を広げる

山野
京都も北谷もそうですが、景色とランドスケープが喧騒の中を区切る非日常のトリガーになりますよね。ランドスケープはそれを演出する役割があると思います。ダブルツリー北谷の塀に囲われた中には、ガジュマルなど特徴的な樹種が植栽され、そこに行くとリゾートが感じられます。ホテルにおけるランドスケープは、非日常へと空間を変えるためにあるべきではないでしょうか。
松本
1棟ホテルの場合は特にそうですね。対して、豊洲ホテルのランドスケープは屋上の中庭だけしかありません。チェックインが済んでからの廊下から見える中庭。客室からも見える中庭空間。非日常のシークエンスという意味では、エントランスやロビーで感じてもらった非日常感をそこから見える中庭でさらなる非日常をどう感じてもらうかが重要でした。豊洲ホテルでは屋上の中庭をとにかく景色として楽しんでもらえるように意識をしました。豊洲ホテルのランドスケープは“停泊”というコンセプトで、水面の煌めきを砂利と石で作っています。
山野
中庭があるからこそ、普段と違う場所に来たと感じることができます。Mギャラリーも中庭がありますね。インテリアデザイナーとしては、ああいった中庭はワクワクします。
安部
1階には2部屋あるのですが、レストランやエントランスロビーと同じフロアでありながらも、客室から見える庭があると高級感があり、客室としての価値が上がります。その客室からだけ臨める庭があるのはいいですね。
入江
六本木ホテルに泊まって思ったのは、チェックアウトする時のランドスケープの見え方が良かったですね。壁面水景と外の水景に外光が当たってキラキラと煌めいていて、夜とは全く違う雰囲気を楽しめました。これからの時代、ランドスケープの役割は一番変わりそうな気がします。見るだけではなく、使うランドスケープになるのでは?
松本
グリーンツーリズムをホテルの中で提供していくのも面白いかもしれませんね。屋外でのワーケーション。見て綺麗、緑豊か、だけではなく、リフレッシュしたり家族や友人とのコミュニケーションを豊かにする外のアクティビティが求められてくる気がします。そこまで含めてランドスケープデザインの提案が今後できるといいなと思っています。

時代に囚われ過ぎない未来を見据えたデザインを提案していく

入江
とあるホテルのクライアントから、「コロナのことも考えるが、そのことを考え過ぎていては収支が成り立たない。例えば部屋や設備をわざわざ細かく分ける必要はないと思っている。今度コロナが収束したらそれらが足枷になってしまう。そういうことはやりたくない。」と言われることがありました。ホテルの新しい在り方を理解し、人との距離感についても考えていくことが大切だと思っています。僕らも空間を考える上では、その距離感に気を付けてやっていく必要がありますね。
松本
4LDKでも戸建ては売れていますが、ホテルは細切れではなく、大空間が好まれることの方が多いのでは?と思いますね。そこに程よく人がいて、人の気配を感じながら自分の時間を過ごすっていうのが良いのではないかと。
安部
ホテルに限らずですが、外とすぐに繋がれるのは気持ちがいいですよね。そういった空間がもっと当たり前になるといいなと思っています。リモートワークだからどこでも仕事ができるという環境がもう少し一般化すると、ホテルの在り方ももう少し、泊まるというより暮らすに近い、そんな空間や環境になっていくんじゃないかなと。
入江
ライフスタイルホテルが流行りだした頃、人間が思い描くわがままを聞いてくれるホテルという感じでしたよね。生活が豊かになって色んなことが当たり前になってきたからこそ、生まれたスタイルのホテルだなと。最近は風が通り抜けて、心地よい空間を提供出来る日本独自の縁側文化をそのまま!とまでは言わないですが、日本のライフスタイルホテルが海外にもたくさん輸出できると良いのではないかなと、思っています。
山野
既に輸出しているホテルブランドも一部ありますよね。そういうホテルは、サービス命だという軸があって、デザインで惹きつけ、サービスで人を留めています。逆に言えば良いサービスができる環境に整えるのがデザインの力ですよね。
入江
外観デザインがホテルに寄与するのはある一定までかなと感じることはあります。最終的には、サービスが重要になってきますが、特にインテリアはサービスと密接な関係性があると言えますね。
山野
インテリア空間は、サービスのしやすさを考えることも大切です。例えば掃除の時もそうで、1mmでも段差があると清掃が大変だから、デザインの印象を変えず、清掃しやすい形状としてほしいという依頼をされたこともあります。
松本
こうしてホテルを含めた世の中の状況は日々刻々と変わっていくけど、僕たちJMA/PCPAJは変化に対して柔軟であり続けて、お客様、サービス、全ての環境を読み取ったデザインを提供していきたいですね。
入江
そうですね。ニーズが多様化しても、JMA/PCPAJはどんなことも柔軟にまず受け入れて理解するようにし、クライアントに寄り添い、“対話”を大切にしています。そして、外観からインテリア、ランドスケープまで提案することも、あるいは協業して様々な人をまとめながらプロジェクトを進めることもできます。今後も様々な形で人に長く愛されるデザインを提供していきたいと思います。

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